見出し画像

看取りをささえる側の、私の看取り体験

子供たちが休みの祝日に、いい中古物件ががあるから見に行こうと思ってた朝だった。7時前後に「おじいちゃんが倒れた」と呼び出されることにはいい加減慣れ始めていた。おじいちゃんと呼ばれるのは、僕の父だ。

この時間にキッチンでよくこけていた。

眠い目をこすりながらいくと、床に倒れて右のこめかみと左の手の甲から出血していた。母は、そんな父をすわらせようとしていたが、ねかしておくようになだめた。

父は、血をサラサラにする薬を飲んでいる。サラサラにすると血が固まらない。出血が止まらないのだ。出血する左手を持ち上げて、しゃべらないけど止血してくれといってるのがわかった。

タオルできつく縛って止血したら手をおろした。満足したらしい。ところでしゃべらない。いやたぶんしゃべれない。

測った血圧は215/118だったと思う。医療従事者ならこの時点で何が起きているかわかる。
母も僕も妻も医療従事者だ。

脳出血だとすぐに分かった。到着した救急車で搬送する父を車で追った。母は落ち着いてるふりをしているので、動転している。そんなもんだ。

すぐにCTをとって、診察室で画像を見た。医師が何も言わなくてもわかる。
医療知識があるから。出血範囲は脳の1/3まで広がっている画像は、命が長くないことを語っている。

ここでは何もできないから別の病院に搬送するか聞かれたけれど、いったい何をしようというのか。母がここで最期にしてくださいと返事をしていたと思う。これが看取りか。

倒れてから1時間。忙しく看取りはやってきた。思ってる以上に涙が流れた。あと1時間ももつだろうか。僕の家族もすぐについた。

兄は東京にいるので間に合わない。姉は家族と駆け付けた。おじいちゃんの兄弟やおいやめいも来てくれた。

かなりの重度の脳出血だった。1時間は持たないと思って9時を過ぎた。
もう、長くないよと、僕が子供に伝えた。

10時を過ぎた。お父さん、長くないって言わなかった?と子供に言われた。

11時を過ぎた。おじいちゃん意外と心臓強いんだな。人工弁の置換と、大動脈を置換していることを思い出した。

チェーンストークス呼吸ぽいのが始まった。なくなる前に現れる呼吸だ。

11:30を過ぎた。
だんだんと家族も落ち着いてきている。
心電図がみだれてきた。心臓もそりゃしんどいでしょう。なぜか点滴を入れていた。出血しながら点滴いれたら酸素不足で窒息状態になりませんか。これいりますかほんとにって聞けなかった。

11:53 心臓ももう疲れたらしく父は息を引き取った。お疲れ様の涙が少し出た。かなしいよりもお疲れ様だ。多分そんな感じだったと思う。

もし、医療の知識がないひとに第一次救急病院を進められたら、行ってしまいませんか?透析患者で血液サラサラすぎる1/3範囲脳出血した父を、別の病院に搬送する?しんどいのに?

改めて、こうしたリアルな経験を通して思ったのは、利用者さんのターミナル当日、その瞬間に居合わせることができない私たちが、すこしでも迷いなく、本人と家族の意向をくんだその日を迎えられるようにしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?