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受け継いでいく

歩き方が悪い。

そもそも姿勢が悪い。

小学生のころから猫背で、矯正バンドをつけていたぐらいだ。でも矯正バンドは肩が内側に入るのを広げる(胸を張る)姿勢に矯正はできるが、頭が垂れるのを防ぐことはできない。そのため、背中に竹尺を入れられたりしていた。

この姿勢の悪さ、今になって思うと父に似ている。

ただ父はその年代にしては背が高く、昔ながらの日本家屋だった実家で暮らすにはそうするしかなかったのかもしれない。祖母をはじめ、まわりの人も小柄な人が多かったので。

足の底を擦るような歩き方も似ている。靴の底はけっこうすぐダメになる。

昔、もう社会人になっていたころに帰省して、夜に庭で飼っていた犬がひどく吠えるので、夜中というほど深夜でもないのだが、裏口から様子を見に出たことがあった。

我が家の裏にある工場は何度か泥棒に入られたり、不審者が入ってきたりしており、そのために夜は門を閉めて犬を放していたのだ。

しかし、いつもの野良猫かなにかだったのか、特に異常なく、私は裏口に戻って……って、施錠されている……

我が家の家族は朝が早く、したがってだいたい夜9~10時には完全就寝である。

なので、逆に私しか起きていないから、そのドアを施錠しに起きてくる家族もいないだろうと思っていた。夜に内側から施錠することしかしない田舎の家なので、鍵など持っているわけない。おい。おーい!!

長姉は、仕事が終わると同時に、外にある備蓄用の冷蔵庫をあけて缶ビールを飲みながら工場を片付けてまわり、長風呂した後そのまま晩酌し、気持ちよく寝る人だ。何しろ5時に起きて、犬の散歩を欠かさない。そして起こすと怖い。

雨戸を叩けば祖母は起きてくれる気はするが、認知症が進んでいて、なにか別の事件に発展する気もする。昔はこういうとき頼りにすると真っ先に助けてくれたのだが……

家を大きくまわりこみ、寝室の窓を叩けば両親は起きてくれるかもしれないが、寝入りばなに起こすのも気が引ける。

っていうか施錠する可能性のある人全員寝てる。このうちの誰かが私を締め出したのは確実なのだが……

遊ばんか? と跳ね回る犬をつれて、父のサンダルでうろうろしていると、いきなりばちんと裏口のカギが開いた。奇跡。

ドアを開けると、眠い目をこすって長姉が立っていた。

「お父さんが締め出されたんかと思って」

それで開けてくれたのだ。私だったら放置されていた可能性が高い。助かった。

姉が私を父と間違えたのは、サンダルを擦る足音だった。かかとをする、ずっずっ、という足音が父に似ていたのだろう。

こないだ夜に外にゴミ出しをしたとき、夫のサンダルを履く自分の足音が父の足音と同じで思い出した。

ちなみに先の事件、施錠したのは母で、ふと起きて、台所に来てみたら、裏口が施錠されていなかったのを見つけ、誰かが忘れたと思って施錠してそのまま寝たらしい。私がうろうろしていたので、その気配が原因かと思われる。夜型の私が帰省すると母が寝不足になる意味、当時はよくわからなかったが、今になってみるとなんとなくわかる気がしている。

そしていま、長男が鼻をかむ音が父そっくりでたまに驚く。

鼻炎気味で、耳の鼓膜をいためそうなくらい、ぶぴー、ぶぴーと大きい音でかみ続ける。

子どもたちは幼いころに亡くなった私の父のことなど、たぶん覚えていないだろうけど、こうやって受け継がれていくものがあるのだなと思う秋の夜長である。


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