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面影

近所のカフェにまたあの子がいた。
実家にいたのと同じ犬種で、若々しく、いつもにこにこしている。大事にされているのが一目でわかる。
人の顔の判別がつきづらいのと同じく、私の眼には昔飼っていた犬と同じ顔に見える。ついその名前で呼んでしまいそうになる。
でもそれって飼い主さんには複雑な話だよなと思い、黙って視線をそらす。

例えばだけど、小学校時代の同級生のタナカさんにすごい似てるからってタナカさんて呼ばれるのは非常に複雑だよなという。そんな理由である。

でもやはり似た顔だ。同じ毛の巻き方、しっぽのちょいちょい具合。
断尾する犬種なので、ふさふさのお尻にフェルトでできたみたいな丸いしっぽが数センチだけある。ほんとうにちょいちょいとしたしっぽなのだ。それを思い切り振る後ろ姿、愛らしいことその上ない。

帰ってフェイスブックを開く。フェイスブックにはその犬種の飼い主の人たちがそれぞれに更新をしていて、昔のあの子存命のころからときどき交流をしている。顔が似ているから、親戚なのかもしれないですね。そんなことを言っていた子たちはだいたい虹の橋を渡り、二代目、三代目のわんちゃんたちが、にこにこしながら散歩したり、食事したり、眠ったりしている。

でもやはり、どの飼い主さんも、ちがう犬種を飼ったとしても、ふと昔にいた子を思い出したり、面影を追ったり。
そういうものなのかもしれないな。

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