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【記録・報告】国賠訴訟に行ってみた

2020年1月31日、札幌地裁で行われたヤジ排除国賠訴訟の第一回口頭弁論に傍聴に行きましたので、その報告を記事にします(桐島さと子)

 今回は、原告側の意見陳述ということで、「安倍やめろ」のヤジで排除された大杉雅栄と、上田文雄弁護団長が、法廷でそれぞれ15分ほど話をしました。
 傍聴は抽選にこそなりませんでしたが、定員ぴったりか一名少ないかで、平日の昼間にもかかわらず70名弱の一般傍聴者が来られました。それだけこの事件が注目されているということでしょう。それに、噂によると「傍聴席は、裁判官にとっての社会」ということですから、人が多ければ、それだけ世間の関心が強いということを示すことができます。みなさんも、今後の傍聴チャンスにぜひ足を運んでください。

◇法廷で

①始めの諸々


 原告側メンバーと傍聴者が入廷すると、裁判所のスタッフから「撮影、録音、傍聴席からの発言や拍手などをしないように」とのアナウンスがありました。妙に慇懃な言い方でした。「この事件の傍聴者はヤジや拍手をしそうだ」と踏んで、いつもより丁寧にアナウンスしたのかもしれません。なにしろ支援者の集まりの名前からして「ヤジポイの会」ですしね。
 
 数分後に、一番奥の重そうな扉から3名の裁判官が入ってきました。ここまでで揃ったメンツは、裁判官、その後ろに控えた4名ほどの司法修習生、原告側、傍聴者です。なぜか、被告側、すなわち道警側がいません。「今日は被告側は来ないのかな?」と思っているうちに、そのまま「2分間の撮影」が始まりました。テレビでよく見るあの映像(「〇〇の裁判が行われました」というナレーションの背景でよく使われている映像)のための撮影です。カメラが、傍聴席の後ろの壁に張りつくように設置されていました。撮影が終わると、ようやく被告側の弁護士と道職員が入ってきました。

 被告側の入廷はどうして遅れたのでしょうか。そう弁護士に尋ねると、「みっともないからでしょう」と言います。たとえば、企業が自社の弁護士を探すときには、その弁護士が過去にどのような事件にどの立場で関わったのかを調べる。そのため、調べられる身としては、撮影の後に法廷に入ることもあるとのことです。


②動画再生


 意見陳述に入る前に、弁護団が前もって裁判所に証拠提出した映像の一部が流れました。映像を流すための手続き自体、いつもは難航しがちらしいのですが、今回は比較的スムーズに流せることになったそうです。このとき再生された映像は二種類でした。一つ目は、最初にTwitterで最も拡散されたこの動画です。


 どんな事件なのか全く知らずに傍聴に来た方は多分いないと思いますが、裁判所でこの映像を改めて見ることによって、みなさん「やっぱりこりゃ酷いな」と思われたんじゃないでしょうか。見慣れているはずの私も、改めて引きました。これを見て、日本が民主主義をちゃんとできてる国だと思える人は、相当思い込みの強い人でしょう。
 
 二つ目の映像は、当日私がスマホで撮影した動画の一部でした。切り取られた動画の開始位置がどのタイミングだったかはうろ覚えですが、停止位置ははっきり覚えています。大杉が「あなた警察ですか?」と聞き、私服警官が胸ポケットから警察手帳をとりだし、それをひらいた所でピタッと停止したのでした。


③原告(大杉雅栄)の意見陳述


 ソーシャルワーカーとしての大杉、そして、いち生活者としての大杉からみた、今の社会や安倍政権への評価が述べられた前段は、耳で聞いても圧倒的でした。
 “何が「令和おじさん」だ!”のくだりには、傍聴席から笑いがもれました。大杉の思いのこもったフレーズに、小さいながらも拍手がたびたび起こります。私もメモ取りしていた手帳をポフポフ叩きましたが、特に咎められることはありませんでした。裁判官も、真剣な顔で大杉の話を聞いていたように見えました。

※全文は下のリンクから


 そういえば、傍聴席にいて、証言台の大杉の声が少し小さく聞こえたのが気になりました。彼の声は空間によく響くほうなので、不思議に思いました。証言台と傍聴席の位置関係から、傍聴席からは大杉の後ろ姿しか見えないので、声がこちらに響いてこないのも仕方のないことなのかもしれないと思いました。
 ところが、「(証言台では)むしろマイクが声を拾いすぎているように感じたため、声量をセーブした」と大杉。てっきり肉声だと思い込んでいた私は驚きました。でも、証言台にマイクがあるのはよく考えれば当たり前です。ということは、(マイクで拾った音を出す)スピーカーの有無、位置、ボリューム設定の問題でしょうか。PAが居てくれれば「音上げて」の合図を送ったのに。


④上田文雄弁護団長の意見陳述


 憲法で保障された人権、そして民主主義の観点から、道警の行為の不当性を論じていました。堂々たる演説でした。こちらも全文UPしましたので、是非お読みください。



⑤被告側の答弁


 被告側の答弁は「請求棄却を求める」のみでした。「大杉らの訴えを道警は認めないよ」ということです。これは私たちにとって予想外のことではありませんでした。認めてしまえば大変なことになるからです。ただ、大杉の訴状は、動画や写真など、証拠のある「堅い」事実によって構成されています。あの日、多くのメディアが現場で映像を撮っています。起こったこと自体は疑いようがないのです。警察にとって、これは悪条件と思います。
 では、いったいどのような理屈で反論してくるのでしょうか?何を弁解するつもりなのでしょうか?「ヤジ排除」については民主主義や言論の自由が問われる重大な事件といわれているのに、こう言ってはやはり不謹慎かもしれませんが、私としてはちょっと好奇心が抑えられません。これからの展開が楽しみです。


⑥「差し支えです」


 最後に、次回期日の日程調整がありました。

 裁判長が「×月×日はどうですか。」と聞くと、原告側弁護士が「その日は差し支えです」と答えました。「差し支えます」の聞き間違いかと思いましたが、何度聞いても明らかに「差し支えです」と言っています。初めて耳にする謎の用語に興味をかきたてられて、帰宅後すぐGoogle検索しました。やはりこれは法曹業界特有の言い回しみたいです。「きっと弁護士は飲み会のセッティングでも「差し支えです」って言ってるんだろうなぁ」と想像していたら、それを裏付けるこんなコラムも。


弁護士は,裁判に限らず,飲み会でも何でも,なにか予定を決めるときに先約がある場合は「その日は差し支えで・・」とつい答えたりします。
(「法曹界の「業界用語」 弁護士業界コラム」より)

https://www.uku-law.jp/column14.html


や、やっぱり!(笑)

裁判の経験が浅い私は、こんなことで大喜びしてしまいます。

※ちなみに、記事の最後でまた案内しますが、次回期日は4月3日の14時からに決まりました。


◇報告集会で


 裁判が終わったあと、報告集会/記者会見が持たれました。
 これ!!とても面白かったです。法廷では話が少しずつしか進まず中身も地味なので、ずっとこの事件について情報を追いかけている人しか面白みを感じないかもしれませんが、報告集会では「いま何がどうなっていて、これからどうなりそうか」を、弁護士の方々がわかりやすく説明してくれます。なので、もし傍聴に来たら、その後の報告集会にも来てください。より楽しめる(?)と思います。

 ところで、この記者会見で、大杉や弁護士の発言のうち「これは新聞に書かれないだろう」(書くとしても北方ジャーナルくらいだろう)と思われるものをメモしておきましたので、ここでいくつか紹介しましょう。


Q:裁判所に訴えたいことは何か。
大杉:「こんな事案にも“違法”と言えないのなら、裁判所の看板おろしてガソリンかけて道で燃やせ」と言いたい。


Q:今の気持ちは。諦め?怒り?
大杉:排除されたことについては驚いていない。この国を民主主義だと思ったことがないから


Q:こちらで調べたところ、似た裁判例は過去に無いようだ。その点について弁護団はどう思うか。
弁護士:こちらでも見つからなかった。異常な事件だ。行政が法律を無視して勝手に行動するということは違法であると、当たり前のことを(裁判所は)言って欲しい。最近の司法の動向をみていると、そのような「当然の判断」さえも貴重であるように思えるが(それでも)。


◇次回期日案内


 次回の裁判は、2020年4月3日14時から、札幌地方裁判所にて。傍聴が抽選になる可能性がありますので、40~50分ほど前に来ていると安心です。


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