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戯曲「メゾンの泡」 02/04

2場

【4】 隣の部屋

  京子と真矢、部屋の整理を続ける。
  やがて真矢は就活に向かう。
  京子、椅子に座る。

綿貫 新暦73年10月5日、最近、隣の部屋が騒がしくなってきた。今まではむしろ静かすぎたのだが、どうも声の大きい女が新しく増えたようで、壁も薄いから割と筒抜け。何だ、急に楽しそうだな。その賑やかな部屋の横で、K太郎は寝ている。K太郎がここに通うようになったのは半年ほど前で、頻度はその時々によって変わるけど、最近はよほど寂しいのかよく顔を見かける。彼は私に対して嘘ばかりつく。自分の名前や素性や趣味や仕事とか、全部が全部、私と会うときは作りものでコーティングしている。ごっこ遊び。だから私も適当なことを言って、彼のお遊戯に付き合っている。デタラメでも、安心できる方がいいの。

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