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ネタバレ感想『未来のミライ』大人のためのアニメーションだと思うな

くんちゃんの体験する不思議な出来事

お兄ちゃんになったくんちゃんは、不思議な出来事にいつの間にか巻き込まれていきます。犬が擬人化しておじさんになったり、未来から高校生になった妹がやってきたり。まるで絵本のように次々と不思議な出来事がほとんど説明なくくんちゃんにやってきます。

リアルな育児環境

この作品のテーマの一つである「子育て」。自分はまだその経験がありませんが、なかなかリアルに描いているのではないでしょうか。子育ての難しさは観ていてとても伝わってきます。

父親像

くんちゃんの父親役は星野源です。実は病弱だったということもあるのですが、これがまあ典型的な草食系な優しそうなお父さんなんです。子育てへの取り組み方、くんちゃんへの接し方にどれも緊張を感じます。パッと観た限りでは頼りなく感じてしまいます。

一方、福山雅治演じるひいおじいちゃんは、戦場帰りの精神の強い男性です。くんちゃんに背中を見せ、多く語らずともたくさんのことを学ばせてくれます。これが本当にかっこよく映るんです。

ふたりの全然違う父親像が描かれていることが、視聴者の心にどう響くのか。対比してしまうのはちょっと酷です。

昔と今では生きる環境が違います。それは時代による社会全体の環境の違いでもありますし、成長するうえで受けてきた教育の違いもあります。どちらが良いということはなく、どちらも時代に合った生き方なのですが、大人な見方をしてしまうとついつい昔のほうが良かったと感じてしまうような構成なのです。くんちゃんは知らない世界に迷い込み、そこで出会った男の人から成長するためのヒントを学んだ。それが実はひいおじいちゃんだった。視聴者はそれだけを受ければ良いのです。

しかし、観た後は教育について考えてしまいます。自分は男なので、将来どちらの父親像が子供にとって良い影響を与えることができるのか、ついつい考えてしまいます。背中を見せるとはどういうことなのか。くんちゃんのお父さんは仕事を理由に一度子育てから逃げています。これはお父さんの多くは経験し、世の長らく続く風潮になっているでしょう。問題点を提示するならば、逃避先、家庭と仕事が別物として捉えられていることが良くないのではないでしょうか。仕事と家庭は、本来生活のなかで混ざり合うもの。そして教育は与えるではなく場面を見せ考えさせるものなのかなと考えました。

本渡楓の赤ちゃんの演技

演技について語るなど恐れ多いのですが、本渡楓のミライちゃんの演技について是非とも書きたいと思います。

自分は尊敬する声優の一人に、こおろぎさとみがいます。「クレヨンしんちゃん」のひまわり役と言われればピンとくる方も多いと思います。彼女のすごいところは自然なまでの赤ちゃん演技にあります。言葉を喋れないという特徴のなかで言語化できない音声を最大限に駆使し感情を表現していくということは並の演技力ではできないと思います。

『未来のミライ』では、赤ちゃんのミライちゃんを本渡楓が演じています。彼女はかねてから赤ちゃんの役をやりたいという夢があり、今回はそれが実現しました。劇場でミライちゃんの声を聴いたとき、衝撃が走りました。それはこおろぎさとみの赤ちゃん演技を聴いた時と似たような感動だったのです。リアルとは少し違うかもしれませんが、感情を目一杯爆発させた演技にただただ放心状態になってしまいました。もっと声を聴いていたいと思わせてくれたその演技に、彼女の声優としての未来がみえたような気がしました。

大人のためのアニメーションだと思うな

この作品、すこし調べてみるとあまり評価がよろしくありません。

演技に関することだったり、お話自体に関することだったり、レビューではいろいろ言われています。

一度考えてほしいのはアニメーションは誰のためにあるべきかということ。それはもちろん大人であってもいいし、子供が楽しめるものであればなおさら良いでしょう。この作品は、細田守は誰に対しメッセージを伝えたかったのか。

『未来のミライ』という作品は、観る年代や状況によって刺さる部分が大きく違うのだと観ていて感じました。例えば、子供のいる大人だったらどう刺さるか。子育ての大変さと美しさが共感として伝わってくる。もしくは自分だったらこうだったと考え事が広がる作品なのでしょう。

子供が観たらどう感じるのか。子供はストーリーと文脈を完璧に理解することはできません。そもそも深読みをすることはありません。断片的に伝わってくる情報とアニメーションの動きに面白さを感じるのだと思います。

大人と子供の違いは、作品中のメッセージを文章で受け取るか直感で受け取るかの違いなのだと思います。くんちゃんの体験する不思議な出来事から、子供はどういったメッセージを受け取るのか。もし自分に子供がいて一緒に観に行っていたとしたら、観終わった後に「どう思った?」と聞いてみたいと思いました。

この作品は、大人な見方をせず、童心に帰り絵本を読むような感覚で観ればとても楽しめる作品だと思います。それにしてはプロモーションが強すぎるのですが、これも細田守への皆の期待の表れなのでしょうね。

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