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映画の話『怪物』

何とも言えない好みの空気を醸し出すドラマ脚本家を調べると坂元裕二さんであることが多くて。
キャラクターごとに話し方とか、間合いとか、動きの速さとか、いろんなところに面白かったり、哀しかったりの感情を呼び起こされて、その世界観にハマってしまうものを作ってくれる。

そんなわけで。
カンヌで受賞したこともありますし。
観てまいりました。
『怪物』

ネタバレが入るかと思いますので、これから観る方は読まないでまず映画館にいってらっしゃい!

おおまかな感想としては、
是枝監督×坂元脚本=納得
です。

怪物というタイトルからすると、さぞかし怖いのかしらと思ったり、人間のなかの「怪物」なんだろうな、と推測しますよね。
後者で正解です。そこは予想のつくところなので、「怪物だーれだ」の予告通り、誰の何が怪物なのかを集中力を切らさないように観ていました。

進んでいくうちに、「はいはい、なるほどね」な気持ちになってきます。
物事には様々な視点があって。
誰かの価値観に照らしてみると、それは正解で正義なのです。
でも、視点を変えていくと、その人が見ていた物事は決して真実とは限らない。その人の正義すら果たして本当に正しいのかどうか。

「こういう人はこうだ」と決めつけた考えに捉われてしまう。
それ以外は排除する。
ねじ伏せる。
弱者を弱者たらしめるのは一体何なのか。
さて、怪物だーれだ・・・というところでしょうか。

坂元さんの作品でいくと、『Mother』のテイストかな。
そして、田中裕子が不気味なのと腹立たしいので前半が終わり。
物語が進んでいくと、少年の心に一番近づいていたのはこの人だったのかもしれないと思わせる音楽室のシーン。
『anone』を思い出させます。
田中裕子は「この人にしかできない」と思わせる人ですよね。

ちょっとだけしか出ませんが、高畑充希ちゃんのこういうドライな役って珍しいなぁ、と思ったり。

そして、特筆すべきは少年二人の美しさ。
安藤サクラの息子役の黒川想矢くんも、中村獅童の息子役の柊木陽太くんも本当にかわいらしいし、上手。
2人の距離感が、全く違和感なく、よく感じ取れた。
どちらの内面もよく表せていた。今後が実に楽しみ。
柊木陽太くんの役の自分に降りかかる不幸な環境の受け止め方がMotherの芦田愛菜ちゃんのそれと似ている。
でも、芦田愛菜ちゃんの役のように「純粋なかわいそうな子」だけではない。

ラストの部分が、「へ?これはどういうこと?」とモヤモヤした気持ちで席を立った。
うーん。映画館で観る価値があったのかどうか。
そんなことを考えながらノロノロスピードの外に出る列に並んでいると、隣の席にいたカップルが目の前で感想を話していて。
女性「カンヌが好みそうな映画、ってところかな」
男性「うーん。でもさ、ラスト二人は死んじゃったってことだよね」
女性「え!あれそういうことなの???」
という会話で。
私も思わず女性と一緒に「え!!!」と言ってしまいそうになった。

私はてっきり、助かって、二人が駆けだしていくあの明るい世界は「何も変わらない」けれど、二人の中でそれぞれの「怪物」を正面から受け止めて、ふりきった気持ちになれたことの心象風景だと思っていた。

後ろに並んでいた女性二人組も片方が死んだんだよと言い、もう片方が「そうなの?」となっていた。
そういう見方をしたら、また全然違ってくる。

前回に引き続き、「ああ、こんな時に誰かと一緒に来ていたら」と思った。
というわけで、映画館でもう一回は無いけれど、テレビで放送したら、もう一度よく観たい。

映画館でもう一回、で思い出した。
『美しい彼』の映画も観ていたのですが、こちらは、面白さはテレビの方が断然面白い。映画はちょっと色々とやりすぎ感があって、ちょっと興醒めしてしまうシーンもあって。
でも、このシリーズが続く限り、これは大事なポイントなので。
もう一回劇場で観たいなぁ、とも思ったけれど、なかなか時間が取れず。
円盤化したら買う。
わたしはとにかく『美しい彼』が丸ごと大好きだから。