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洋楽の1977年問題を考える
先日、ボブ・マーリーの伝記映画 "One Love" を観た。私はほとんど彼の音楽や人生について知らなかったのだが、映画の中でも制作過程が描かれていた名盤 "Exodus"が1977年にリリースされたということを知って、ああ、これもか、と思ったのだった。
以前から、どうも1977年にリリースされた洋楽アルバムは、歴史を変える、というか、音楽の質が一段グンと上がったように聴こえる作品が多いと感じており、まず思い浮かぶのが、Earth Wind and Fire の"太陽神 (All'N'All)"、とSteely Dan の"Aja"だ。個人的には、この2作が同じ年にリリースされていればそれだけで事件なのだが、後に述べるように、他にも数多くの名作が生まれている。というわけで、(私にとって)洋楽における特異年ともいえる1977年がどんな年だったのか、どんな名作が生まれたか、その要因は何だったのかを浅く考察してみようと思う。別に私は洋楽について特に詳しいというわけではなく、すでに似たような考えを持っている識者がなにか書いてるかもしれないが、そこら辺は調べずに私の知る限りの情報で書いてみるのであしからず。
1.1977年はどんな年か
(1) 私
1977年、和暦で言うと昭和52年、私は中学二年生、14歳だった。って例の「人間は14歳の時に聴いていた音楽を一生愛し続ける」説ドンピシャの年だなw というわけで、私の主張については相当なバイアスがかかっているのは否めない。それを払拭するようなファクトを提示したいものだがどうなるか。いずれにせよ、ブラバンでサックスを吹きつつ、FM放送やレコードを通じてリアルタイムで洋楽を聴いてしばらく経っており、音楽業界以外も含め、私にとってそれなりに世の中が見え始めている時期であるのは間違いない。
(2) 米国
音楽業界の主戦場と言うべき米国の政治経済と言う意味ではどんな年だったのか。
経済、政治、思想、ついでに文化に大きな影を落としていたベトナム戦争の終戦が1975年。そのちょっと前の1973年の第一次オイルショック以降低迷を続けていた経済は1976年に急速に復活していたが、1977年は若干失速していたようだ。とはいえ、現職大統領の弾劾、辞任に至ったウォーターゲート事件(1972-74)、オイルショック、ベトナム戦争というトラウマレベルの出来事を潜り抜け、国全体としてはそれなりに前向きになっていた時期だったじゃないかと思われますな。その後、日本が調子こいて貿易摩擦とか引き起こすわけだが、それはもう少し後。
ついでながら、映画 "Star wars"が公開されたのがこの年でした。
(3) 英国
洋楽もう一つの主戦場英国は、世界に先駆けて福祉国家への道を歩んでいたが、オイルショックの後有効な政策を打ち出せず、完全に停滞。「英国病」と言われていたのがまさにこの時期らしい。サッチャーさんの登場は1979年。その後民営化、規制緩和、外資誘致、金融業振興などで英国は息を吹き返すが、1977年あたりはあまり希望が見える時期ではなかったようだ。
(4) 日本
とりあえず日本も。経済的にはやはり第一次オイルショック後の復活期ではあるが、若干伸び悩み、ぐらいの時期だったようだ。ちなみに当時の首相は福田赳夫。王貞治がホームランの世界新(756本)を達成し、樋口久子が全米女子ゴルフで優勝したのがこの年。テレビ番組的には「アメリカ横断ウルトラクイズ」が始まった年だそうな。戦後、無理を承知で経済的にも文化的にも欧米諸国に追いつけと頑張ってきて、国民が「もしかしたら俺らいけるんじゃね?」くらいに感じ始めた時期だったかもしれない。
(5) 中国
音楽産業とはほぼ関係ないけど中国も面白いタイミングだったようなので書いておこう。1977年は、毛沢東が1966年に開始し、国中を大混乱に陥れた「文化大革命」が正式に終了した年、だそうだ。実際には前年の1976年に毛沢東が亡くなり、いわゆる四人組が失脚している。その後、翌年の1978年には鄧小平の改革開放路線が始まり、現在に至る中国の経済成長に繋がる。まあ、要は、この時期、世界の中で中国の経済や文化における存在感はほぼ無かったといってよいだろう。
2. 1977年を代表する洋楽アルバム
それでは、1977年にリリースされた代表的な洋楽アルバムを眺めてみよう。客観性を保つために、世の中の洋楽アルバムランキング的なものを使ってみる。
(1) Apple Music Best Album 100
たまたまだが、つい最近発表されたApple Music Best Album 100から、1977年リリースの作品をリストアップしてみるとこんな感じ。4枚選ばれている。これだけ見ても、名盤ぞろいだわな。
Fleetwood Mac - Rumours
Steely Dan - Aja
Kraftwerk - Trans-Europe Express
Bob Marley & The Wailers - Exodus
ちなみに、同リストで4枚以上選ばれているのは1977年、1989年、1994年、1997年、2016年。1994年が5枚で、あとは4枚選定。私は1990年代以降はほとんど分からないなw。下の方におまけで一覧を付けておきます。
(2) Rolling Stone誌のThe 500 Greatest Albums of All time 2023
次は、Roling Stone誌のThe 500 Greatest Albums (2023年版)から抜き出してみよう。以下の18枚が選定されている。知らないアルバムも多いが、米国のロック/ポップが洗練の方向に向かっている一方、ヨーロッパ(英国)方面は伝統的なロックと言うより、パンクやらテクノやらレゲエ(ボブマーリー"Exodus"は英国録音)やらといった新しい息吹が出始めている感じだろうか。ついでにいうと、Eaglesの"Hotel California" とStievie Wonderの"Key of Life"は前年の1976年。惜しい。英国方面ではPoliceがデビューするのがこの翌年の1978年ですね。パンクとレゲエのムーブメントを上手いこと混ぜたという感じなんだろうか。
Rumours - Fleetwood Mac
Never Mind the Bollocks Here’s the Sex Pistols - Sex Pistols
The Stranger - Billy Joel
The Clash - The Clash
Rocket to Russia - Ramones
Marquee Moon - Television
Saturday Night Fever: The Original Movie Sound Track - Various Artists
Aja - Steely Dan
My Aim Is True - Elvis Costello
Exodus - Bob Marley & The Wailers
Low - David Bowie
Trans Europa Express - Kraftwerk
Talking Heads: 77 - Talking Heads
Slowhand - Eric Clapton
Bat Out of Hell - Meat Loaf
Pink Flag - Wire
Suicide - Suicide
In Color - Cheap Trick
ちなみに、同500枚のリストで、1977年の18枚より多い年は、1967年-1973年の7年間と、1975年の8年間。Rolling Stone誌だけに、やっぱりクラシックロックの名盤が多く選定されているということだろう。
Rolling Stone誌の"The Greatest Album of All Time (2023)"はこちらから。
3. 1977年の代表曲を挙げてみる
上記のリストも参考にして、私自身が「洋楽の歴史を変えた」あるいは「音楽の質を上げた」と思う何曲かをリンクしてみる。あくまで私見ですので、そこんとこよろしく。
(1) Steely Dan/Aja ("Aja"より)
元スティーリー初段メンバーとしてこれは外せないだろう。Steely Danの前作、"The Royal Scam"もそれなりによくできたアルバムでファンも多いが、"Aja"は楽曲面、演奏面、音質的(そしておそらく歌詞も)等々、一段、いや、二段ぐらい整理され、洗練されていると思う。一応タイトル曲をシェアしておくが、曲順も含めてすべての曲が完璧。
(2) Earth Wind and Fire/September ("All'N'ALL(太陽神)"より)
実は上記したランキングには入っていないのだが、土臭さを残しつつ「洗練されたソウル/ファンクミュージック」を始めて体現したアルバムだと思う。
EW&Fは次作の ジェイグレイドン、デヴィッドフォスターを起用して、さらにお洒落かつダンサブルになった ”I Am(黙示録)" を代表作に上げる人が多いようだが、私としてはちょっとやり過ぎ感があってこっちの方が好き。
All'N'All の代表曲はやはり "Fantasy(宇宙のファンタジー)" かな。ブラジルの作曲家を起用して実に美しく壮大な世界を表現している。一方、ブラバン中学生としてはホーンバリバリの "Jupiter" あたりに興奮したものだ。キャンディーズも後楽園のお別れコンサートでやってましたねw
Jupiterは日本のライブ映像があった。この武道館のライブ観てたかもしれない(自慢)。
(3) Billy Joel/Just the way you are ("The Stranger"より)
このアルバムも1977年。このアルバム聴いてニューヨークを夢見ていました。ジャズ関係者としてはこの曲のフィルウッズにはやられた。音は若干古臭いけど、改めていい曲が多いですな。
(4) Fleetwood Mac/Dreams ("Rumours"より)
泣く子も黙る名盤。このアルバムも1977年だった。私はつい最近まで食わず嫌いしてたんだけど、改めて聴いてみるといいバンドだ。すっかりアメリカの人たちかと思ってたんだけど、元は英国のバンドなんですな。とはいえ、売れない時期にアメリカに移住してメインボーカルのスティーヴィーニックスがカントリー音楽育ちのアメリカ人だったりするので、アメリカンロックということでいいか。70年代のアメリカンロックと言う意味ではこれとEaglesの"Hotel California(1976年)"がひとつのピークだったような気がする。
ところで、最近Prime VideoでFleetwood Mac「みたいな」バンドのドラマシリーズを観ました。「みたい」ってだけで、実際のFleetwood Macとは関係ないんだけど、結構それっぽくて面白かった。
(5) Bee Gees/ Stayin' Alive ("Saturday Night Fever: The Original Movie Sound Track"より)
これも1977年。今聴くとやっぱり古臭いけど、当時は斬新だった。映画を通じて世界にディスコブームを起こし、ディスコミュージックと言うジャンルを確立したという意味では重要かと思う。
(6) Kraftwerk/ Trans Europa Express ("Trans Europa Express" より)
元祖テクノポップのクラフトワークの名盤(らしい)。1974年の "Autobahn" の高い評価で一般化した初期のテクノミュージックが一旦完成したという捉え方でいいんだろうか。あまり知らないのだが、当時は英国のパンクへのアンチというとらえ方もされていた模様。ちなみに、日本でYMOが結成されるのは翌年の1978年。
(7) Bob Marley and the Wailers/Jamming ("Exodus"より)
ボブマーリーの最高傑作と評されるアルバムですな。上に引用したベストアルバム選でも両方にリストアップされている。映画でも描かれていたが、ジャマイカから離れたロンドンでレコーディングされたとのこと。レゲエ自体はジャマイカ発の音楽なのだが、環境が整って、音楽的にも刺激のある英国で録音されたのが良かったのかもしれない。
(8) Anarchy in the UK/ Sex Pistols ("Never Mind the Bollocks Here's the Sex Pistols")より
不得意分野w このアルバム、邦題が「勝手にしやがれ!!」だったんですな。後でも書くけど、実はこの年、1977年の日本レコード大賞は沢田研二の「勝手にしやがれ」だったという。日本のレコード会社って、、
全然知らなかったんだけど、このアルバムってSex Pistolsの唯一のスタジオ録音盤なんですな。翌年には解散しちゃったらしいし(その後金のために復活してライブやったりはしたとか)。英国の社会・経済が低迷する中で、従来のブリティッシュロックを否定・攻撃し、保守的な社会に中指を立てるこのバンドが生まれたのは時代の必然だったのかもしれないし、実際、その後の音楽シーンに大きく影響を与えている(らしい)。
(9) Birdland/ Weather Report ("Heavy Weather"より)
ジャズ業界に目を向けると、このアルバムが1977年ですな。マイルスが1970年前半のご乱心の後、1975年にお隠れになって、その弟子および取り巻きたちが好き放題やった結果、フュージョン(当時はクロスオーバー)というジャンルが確立したのがこの時期かと思われます。ちなみに、ジョージ・ベンソンの名盤"Breezin’'"やはこの前の年(1976年)、クインシー・ジョーンズの "Stuff Like That" はこの翌年。後でも触れると思うけど、ジャズをルーツに持つプレイヤーが大量にスタジオに入ってコマーシャル音楽に絡み始めたのが70年代半ばからこの時期にかけてかと思われます。
(10) Chuck Mangione/Feel So Good ("Feel So Good"より)
意外なところでは、このアルバムも1977年だったらしい。日本では妙に流行って私も良く聴いたが、本家(北米)ではどうだったんだろうか。決してメインストリームではないような気がするが、ジョージベンソンあたりと並んでソフトなフュージョン(クロスオーバー)の代名詞だったかもしれない。そういえばこの人のライブ観に行ったな。
4. (改めて)1977年は洋楽にとって「特異年」だったのか?
さて、一応1977年にリリースされた「洋楽」の名盤を挙げてきたわけだが、この年を、洋楽の「特異年」と言えるのだろうか。まあ、結論としては前後を観ないとよく分からないし、私の場合は「14歳」バイアスもあるのでw、そこまで取り立てて騒ぐような年でもなかったのかもしれない。
しかし、(1) ロックミュージックというジャンルの音楽的な質が格段に高まった("Aja"や”Rumours"あたり)、(2) ブラックミュージック/ダンスミュージックにおいてもその後の道標となるような作品が生まれた("All'N'All" や "Saturday Night Fever") (3) ヨーロッパでは、その後の音楽シーンに大きな影響を与える新しいジャンルの代表的な作品が複数枚生まれた ("Trans Europa Express”, ”Sex Pistols" , "Exodus") と言う意味で、やっぱりそれなりに特別な年なんじゃないかなと思います。無理やりだけど。
5. 「特異年」(っぽく)なった要因は何か
では、なんでこの年が特異年になったのかを考えてみる。完全に私の妄想に近い私論であるので、識者の皆様からのご意見、ご批判を賜りたいものである。
要因1:アメリカにおけるロック/ポップスの「産業化」完成
ロックミュージックそのものは50年代から存在し、60年代後半からのヒッピー文化等々と合わせるようにファンを獲得してきた。とはいえ、70年代前半はまだ「商売」あるいは「産業」として完全に確立していなかったような気がする。1970年前後のフェスの大観衆動員、レッドツェッペリンやらエルトンジョンやらといった大物の登場と大衆への浸透により、レコード制作⇔ライブによる「金が回る仕組み」が確立したのが70年代前半だったのかなと思う。当然、一発当てようとする新規参入バンドも増え、金もじゃぶじゃぶ使える中で良い作品が多く生まれたということなのではないだろうか。
上に書いたが、すでに「政治の季節」は潜り抜けており、ベトナム戦争を終えた米国の大衆が、反戦やら反エスタブリッシュメントといったメッセージ性の強い音楽ではなく、純粋かつ良質なエンターテインメントを求めたという背景もあるのかもしれない。
要因2:ミュージシャン演奏技術の向上とスタジオミュージシャンの参入
ロックもそのころはすでに歴史を重ね、名プレイヤー、名演奏も積み重なっていた。また、上記した「産業化」が進む中一発当てようという参入者も増加しており、やはり音楽的にも、演奏技術的にも優れたミュージシャンが単純に増えていたような気がする。
さらに、マイケル・ブレッカー評伝の考察でも触れた通り、1970年の半ばは、音楽業界の産業化に伴い、スタジオミュージシャンの需要が急増した時期だと思われる。ストリングス等クラシック方面からのミュージシャンも多かっただろうが、ジャズの素養を持つミュージシャンの参入もあり、商業音楽全体のレベルは上がっていたはずだ。ポップスやロックでもそれらのミュージシャンを上手く使って作品を作るケースが出ており、典型的な例としてはSteely DanやBilly Joelが挙げられるだろう。ちょっと毛色は違うが、EW&Fも"All'N'All"におけるブラジル作家の起用、次作 "I Am"でのデヴィッドフォスター、ジェイグレイドンの起用なども外部の才能の活用と言う意味では似ているかもしれない。
要因3:録音技術の成熟
ビートルズが1967年に"St. Peppers"で多重録音を大々的に導入して業界を驚かせてから10年、当時はまだアナログではあったものの、24chやら48chといったマルチトラックレコーダーは当たり前になっており、また、ミキサーやエンジニアも経験を蓄積させてきた時期だったと思われる。上記した「金の回る」仕組みも確立したところで、贅沢にスタジオを使えるミュージシャンが、良いエンジニアと組んで、さらにいい音楽を追求できるような環境が整ったのではないだろうか。
一番わかりやすいのがSteely Danだが、EW&FやBilly Joel 、ランキングには入っていないがStievie Wonderあたりもスタジオワークに助けられていると思う。
なお、1977年、デジタルレコーダーは一般化してなかった。その意味で、アナログレコーダーによる録音技術発展のピークともいえるかもしれない。ちなみに、デジタルレコーダーが初めて用いられたアルバムとしては、1979年のRy Cooder の "Bop Till You Drop" ということになっているらしい。その後マーケットを席巻するソニーや三菱の機械はまだ発売前で、3Mの製品を使って録音されたとのこと。
要因4:欧州の新しいムーブメント
上の三つは米州の話だったが、欧州ではちょっと事情が違うような気もする。ビートルズから始まり、いわゆるブリティッシュロックやら数多のプログレバンドやらでロックミュージックの中心にいたイギリスのバンドが、なんとなく停滞していたのが、この時期だったのではないだろうか。経済も低迷してたし。ついでにいうと、ドイツあたりも冷戦真っただ中でなんとなく混迷していた時期だと思う。
上にも書いたが、どんどん音楽が小難しくなったそこら辺のエスタブリッシュメントバンドに対して反旗を翻したのがSex Pistolsだし、全く違うアプローチで登場してきたのがKraftwerk、みたいな感じだろうか。両バンドともその後の洋楽と言われるジャンルには大きく影響を与えている(と思う)。
以上、色々書いてきたが、上記のようなことが70年代半ばから散発的に発生していて、まとめて表に出てきたのが1977年前後、と言うことなのではないかと思う。改めて考えてみると、米国でエンターテイメントとしてロック「産業」が確立して、いろんなところに金が回るようになったのが大きいのかな。米国のこのトレンドはしばらく続いて、80年代には「大衆音楽の商業化」のピークともいえるMTVの時代を迎えることになる。
6. そのころ日本では
さて、そのころ日本の音楽業界はどうだったのかを簡単に。
1977年といえば、上にも書いたがレコード大賞が沢田研二の「勝手にしやがれ」で、ピンクレディーが大ブームになっていたころだ。その煽りでキャンディーズが解散宣言を行った年でもある(解散は翌年1978年4月)。昭和歌謡の第一次ピークぐらいかな。また、アリスやらかぐや姫やらのフォークミュージックもそれなりに人気があった。
一方で、ロックやいわゆるニューミュージック方面はなんとなくぱっとしない年ではあった。例えば荒井由実(松任谷由実)がティンパンアレイ関係者のサポートと共にデビューして話題になったのは1973年だが、1977年には結婚(改姓)とともに一時期ほどの人気がなくなっていたようだ。また、1975年に吉田拓郎や泉谷しげるといったフォークのリーダーたちとフォーライフ・レコードを設立して、そのムーブメントの中心にいた井上陽水がマリファナ所持で逮捕されたのがこの1977年である。
なお、翌年1978年には、サザンオールスターズとYMOがデビューしている。また、我々の世代にはおなじみの音楽番組「ザ・ベストテン」の放送開始が1978年の1月。今で言うシティポップ的な音楽が制作され始めたのもやはりその頃である(例えば、松原みきの"Stay with Me"は1979年発売)。ちなみに、シティポップは、はっぴいえんど、ティンパンアレイの流れをくむ日本語ロック/ポップ組に加え、山下達郎一派や、歌謡曲等で稼いでいたジャズ系含む腕利きスタジオミュージシャンなどがシーンに参入して生まれた音楽でもある。
思えば、当時まだ日本は経済的にも文化的にも「欧米の模倣→キャッチアップ」が基本的な考え方であった。1970年代半ば、次から次へと発表された豊穣な洋楽に触発・影響(ある程度の模倣も含め)されて、日本のミュージシャンや制作環境のレベルが上がったり、新しい音楽が出てきたりしたのが1978年以降、ということなのだろう。その意味で、邦楽にとっては、翌年の1978年が重要な年なのかもしれませんね。
7. 総括
というわけで、1977年は「洋楽」にとって何かしら特別な意味があるのではないかという仮説のもと、改めて当時の状況や名盤を整理してみた。個人的には、私のあまり知らなかった作品含め、やっぱり歴史的な音源が多いなあ、と思ってしまったのだがどうだろう。また、その要因も私なりに考えてみたのだが、やっぱりコジツケに過ぎるかなという気もする。その意味では、まったくタイトル倒れの企画だったかも。
考えてみれば、ほぼ半世紀(!)前の話をグズグズ書いてあって、40代以下の人から見るとよくわからないと思うが、私にとっては、当時の社会の変化、それに伴う音楽の変化、進化を改めて眺めてみるというのは面白い作業だった。改めて、情報の流通スピードや量が現代と全く違う1970年代、音楽の変化や進化のスピードは今と比べてどうだったんだろうか。個人的には、当時「次はどんな音が出てくるんだろう」とワクワクしていたものだが、そう思うこと自体、一番はじめに書いた「14歳バイアス」が掛かりまくっているのかもしれない。
でも、こうやって自分が生きてきた時代を眺める作業は面白いな。また何かしらやってみたいものです。
おまけ:Apple Music Best Album 100
以下がBest Album 100をリリース年ごとに並べ替えたものです。
1959年: 1枚
Miles Davis - "Kind of Blue"
1965年: 2枚
John Coltrane - "A Love Supreme"
Bob Dylan - "Highway 61 Revisited"
1966年: 2枚
The Beatles - "Revolver"
The Beach Boys - "Pet Sounds"
1967年: 3枚
Aretha Franklin - "I Never Loved a Man the Way I Love You"
The Jimi Hendrix Experience - "Are You Experienced?"
The Velvet Underground & Nico - "The Velvet Underground and Nico"
1969年: 2枚
Led Zeppelin - "Led Zeppelin II"
The Beatles - "Abbey Road"
1970年: 1枚
Neil Young - "After the Gold Rush"
1971年: 3枚
Marvin Gaye - "What's Going On"
Joni Mitchell - "Blue"
Carole King - "Tapestry"
1972年: 2枚
David Bowie - "The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders From Mars"
The Rolling Stones - "Exile on Main Street"
1973年: 3枚
Pink Floyd - "The Dark Side of the Moon"
Elton John - "Goodbye Yellow Brick Road"
Stevie Wonder - "Innervisions"
1975年: 2枚
Bruce Springsteen - "Born to Run"
Patti Smith - "Horses"
1976年: 2枚
Stevie Wonder - "Songs in the Key of Life"
Eagles - "Hotel California"
1977年: 4枚
Fleetwood Mac - "Rumours"
Steely Dan - "Aja"
Kraftwerk - "Trans-Europe Express"
Bob Marley & The Wailers - "Exodus"
1979年: 1枚
The Clash - "London Calling"
1980年: 2枚
Talking Heads - "Remain in Light"
AC/DC - "Back in Black"
1982年: 1枚
Michael Jackson - "Thriller"
1984年: 1枚
Prince & The Revolution - "Purple Rain"
1985年: 1枚
Kate Bush - "Hounds of Love"
1986年: 3枚
Metallica - "Master of Puppets"
The Smiths - "The Queen Is Dead"
Janet Jackson - "Control"
1987年: 3枚
Guns 'N Roses - "Appetite for Destruction"
Prince - "Sign o' the Times"
U2 - "The Joshua Tree"
1988年: 2枚
Public Enemy - "It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back"
N.W.A - "Straight Outta Compton"
1989年: 4枚
De La Soul - "3 Feet High and Rising"
Madonna - "Like a Prayer"
The Cure - "Disintegration"
Beastie Boys - "Paul's Boutique"
1990年: 1枚
George Michael - "Listen Without Prejudice Vol. 1"
1991年: 3枚
Massive Attack - "Blue Lines"
Nirvana - "Nevermind"
A Tribe Called Quest - "The Low End Theory"
1992年: 3枚
Rage Against the Machine - "Rage Against the Machine"
Dr. Dre - "The Chronic"
Sade - "Love Deluxe"
1993年: 2枚
Snoop Dogg - "Doggystyle"
Wu-Tang Clan - "Enter the Wu-Tang (36 Chambers)"
1994年: 5枚
Mary J. Blige - "My Life"
Notorious B.I.G. - "Ready to Die"
Nine Inch Nails - "The Downward Spiral"
Portishead - "Dummy"
Nas - "Illmatic"
1995年: 2枚
Alanis Morissette - "Jagged Little Pill"
Oasis - "(What's the Story) Morning Glory?"
1996年: 1枚
2Pac - "All Eyez on Me"
1997年: 4枚
Missy Elliott - "Supa Dupa Fly"
Erykah Badu - "Baduizm"
Radiohead - "OK Computer"
Björk - "Homogenic"
1998年: 2枚
Lauryn Hill - "The Miseducation of Lauryn Hill"
OutKast - "Aquemini"
2000年: 3枚
Eminem - "The Marshall Mathers LP"
Radiohead - "Kid A"
D'Angelo - "Voodoo"
2001年: 3枚
Jay-Z - "The Blueprint"
Daft Punk - "Discovery"
The Strokes - "Is This It"
2003年: 1枚
50 Cent - "Get Rich or Die Tryin'"
2004年: 1枚
Usher - "Confessions"
2006年: 1枚
Amy Winehouse - "Back to Black"
2007年: 1枚
Burial - "Untrue"
2009年: 1枚
Lady Gaga - "The Fame Monster"
2010年: 2枚
Kanye West - "My Beautiful Dark Twisted Fantasy"
Robyn - "Body Talk"
2011年: 2枚
Adele - "21"
Drake - "Take Care"
2012年: 1枚
Kendrick Lamar - "Good Kid, M.A.A.D City"
2013年: 3枚
Lorde - "Pure Heroine"
Beyoncé - "Beyoncé"
Arctic Monkeys - "AM"
2014年: 1枚
Taylor Swift - "1989 (Taylor's Version)"
2016年: 4枚
Rihanna - "Anti"
Frank Ocean - "Blonde"
Beyoncé - "Lemonade"
Solange - "A Seat at the Table"
2017年: 1枚
Tyler, the Creator - "Flower Boy"
2018年: 2枚
Travis Scott - "Astroworld"
Kacey Musgraves - "Golden Hour"
2019年: 2枚
Billie Eilish - "When We All Fall Asleep, Where Do We Go?"
Lana Del Rey - "Norman Fucking Rockwell!"
2022年: 2枚
Bad Bunny - "Un Verano Sin Ti"
SZA - "SOS"
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