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【短文レビュー/邦画新作】『侍タイムスリッパー』安田淳一監督

トップ画像:(C)2024未来映画社

監督&脚本:安田淳一
配給:ギャガ、未来映画社/上映時間:131分/公開日:2024年8月17日
出演:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、庄野﨑謙、紅萬子、福田善晴、井上肇、安藤彰則、田村ツトム

話題になっているのは知っていたが、ちょっと私生活でドタバタが続いていてタイミングが取れずにいた『侍タイムスリッパー』を、やっと観ることができた。池袋シネマ・ロサの単館上映で始まったはずが、あっという間にTOHOシネマズ日比谷の一番大きいスクリーンでかかっている現状だ。低予算の自主制作映画が急速に広がっている様相は2017年の『カメラを止めるな!』の盛り上がりを思い出させる。逆に言えば、6年もの間、洪水のように大量公開されている自主制作映画からひとつのヒット作も出なかったということでもあるが。

そんなわけで遅ればせながら鑑賞したが、とりあえずビックリしたのは、絵面がまったくもって自主制作映画のそれではない。有名な役者が出ていない点を除けば、自主制作とは気づかないほどの貫禄だ。シネコンの巨大スクリーンに映し出されても違和感を覚えないのは、驚異的ですらある。これは特にロケハンの勝利で、まず劇中の主な舞台が実際のロケ場所と同じく京都撮影所なので、背景がしっかりしている。他のシーンでもちゃんとした場所を借りており、撮影場所から予算の少なさを感じることが、ほぼほぼない。予算面で最も危うくなりそうな「本当の幕末のシーン」は、技術スタッフの総出によって重厚に塗り固められている。力を入れるべき箇所を、ちゃんと把握しているのである。

話としては単純で、幕末の会津の武士が現代の京都撮影所にタイムスリップしてきて、時代劇の斬られ役として第二の人生を歩む話である。主人公は割とすぐに頭角を現すので、これ話がうまく行きすぎているけどどうやってオチをつけるんだと少し不安になるが、中盤で更なるギミックを入れて話の方向を変えている。その結果として、映画がフィクションであるがゆえの力を信じてなかれば撮れない、白熱したクライマックスへと繋がっていく。このクライマックスのシーンだけなら、誇張でもなんでもなく、今年観た邦画で最高のカタルシスを産み出していた。主人公の武士が会津藩(歴史上は敗者の側)という初期設定が、要所で効果的に作用しており、物語全体へのスパイスとなっているのは非常に巧い。

気になるのは、これコメディと銘打っているが、そこまで笑いにつながる面白さはあっただろうか。事実、それなりに客の入りがあった金曜夜のTOHOシネマズ日比谷でも、声を上げる笑いはほとんど起きていなかった。いや、笑わせようとしている瞬間は随所に挟まれているのは確かではある。斬られ役なのに本来は武士なのでどうしても斬ってしまうとか、そういうベタなやつ。これらの笑わせ要素が、劇中でさらっと流されていくので、数秒遅れてから「あ、今のやつ、笑わせようとしてたのか」と気づく。この、いかにも素人作の「笑い」が、本作が自主制作だったと思い出させる唯一のポイントとなり、それはそれで味になっているのであった。

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