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一輪の紅い花(一分で読める小説)



目覚めると紅い花。
誰も訪れる事も無い私の病室に
そっと置かれた紅い花。
…誰が飾ってくれたのだろう?看護婦さんかな…

牛乳瓶の中で佇む一輪の紅い花。
…この花の名前は、何て言うのだろう?…

私は今まで、花には興味は無かった。
見ていても、心を動かされる事も無かった。
花の美しさに心を留めずに生きてきた。

…綺麗な花。一輪でも凛々しい…

この花は何処で咲いていたのだろう?


今、振り返る、何が私の幸せ?
財力が無く、健康も損ね
ただ死を待つだけの哀れな人。
私が死んでも誰も悲しんではくれない、
天涯孤独の人。

「おじさん、元気出してよ」
と、遠くで声がした。

「まだ死ぬとは決まって無いよ」
と、声がする。

私の心に響くこの声は、この紅い花の声なのか?

「そうだよ、おじさんを励ます為に僕は此処に来たんだよ。
元気出しておじさん。
おじさん、覚えて無いの?
おじさんが僕を守ってくれたんだよ。
だから、僕はその恩返しに此処に来たの」

「私が守った?そんな事してないよ。」

「守ってくれたよ。
子供が花を引っこ抜こうとしてた時、
おじさん守ってくれたよ。
あの花は僕のお母さんだったの。
今、僕が此処に咲いていられるのも、
おじさんのおかげだよ」

「嬉しい事を言ってくれる。ありがとう」
と、私は答えた。


いかん、遂に私も幻想を見る様になってしまった。
もう私の寿命はほとんど無いのかも知れない。
それに、私はおじさんでは無い!

お婆ちゃんですよ。









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