24 夜学バーの成立要件(4) 雑居ビルの3階アドベンチャー

 夜学バーは「ご近所型」でなく「わざわざ型」を目指していると前回書きました。また、一回きりのお客を多く尊ぶ「観光型」でもありません。頻度は低くとも長く通ってくださるお客を、できるだけ多く獲得したいという思いがあります。
 となると路面店(建物の一階にある、道路に面した店舗)である必要はありません。繁華街のど真ん中で、地下鉄やJRからも近く、もちろん地価はめちゃくちゃ高いですから、とても路面店の賃料は捻出できません。じっさい夜学バーは雑居ビルの3階。それでもぎりぎりというか、普通の人ならやめてるレベルの経営です。(それはもちろん売れない僕がわるいのです。)

 わいざつな繁華街の、狭い路地に入った、雑居ビルの3階。薄暗い階段を登り、窓のない扉をおそるおそる開けてみる……。ここまでがすでにアドベンチャーで、「お店の構造」に含まれております。

 そういうお店が近所にあったって、入る人はほとんどいません。ではいったい、「近所の雑居ビルの上のほうにある怪しげなバーやスナック」には、どのような人が行くのでしょうか?
 はっきりいって、おそらく、「勇気を出して一人で扉を開けた」というようなお客はほとんどいませんし、お店のほうからも警戒されるでしょう。そういうお店ははじめ大抵、「誰かに連れられて」行くものです。あるいはせいぜい、「誰かの紹介で」いきます。「あのー、〇〇クンの紹介で」と言えば確実に歓迎してもらえる、という後ろ盾をしょって行きます。
 ほとんどの「ご近所型」のお店は「コミュニティ化する」という前提があります。なぜなら、ほぼ「友達の友達」しかお店に来ないからです。そこには安心感もありつつ、閉塞感もあります。

 夜学バーはインターネットを(まさに今このように)活用したがる「わざわざ型」のお店で、近所づきあいもろくにしていないので、「誰かに連れられて」とか「誰かの紹介で」ということはかなり少ないです。インターネットで見かけて、気になってがんばってひとりでいらっしゃる方がたぶん一番多いです。

 ゆえに、先に書いたような「アドベンチャー」もよく発生します。
 もし、近所のお店であれば、階段を上がって、扉に手をかけても、「やっぱりやめよう」と引き返すことは容易です。だって近所なんだから。でも、わざわざ出かけていった先だと、そうもいきません。「せっかく来たのにこのまま帰るなんて!」という気分が働きます。それでけっこう多くの人が、がんばって扉を開けてくださるのです。
「わざわざ型」だからこそ、みんな勇気を出しやすくなる、というのはあると思います。

 勇気を出して扉を開けると、そこには誰かがいます。店の人しかいない時もありますし、他のお客さんがいる時もあります。夜学バーはすぐれて「わざわざ型」のお店なので、多くのお客さんが同じように勇気を出してグイッと扉を開けた人。だから気持ちはわかります。「おー、よくぞ(自分と同じように)その扉を開けましたな」という気分を共有できることが多いと思います。そんな会話は別にまず起こりませんが、みんななんとなく、肌でそう伝え合っているのではなかろうかと。「よく見つけましたな」「あなたさまも」と。

 そのような「伝え合い」が発生しやすくなるような仕組みも、実はちゃんと考えられています。べつにすべて普通のことではあるのですが、少し時間がかかるので次にひっぱります。



【定型文】
 2022年6月のみ更新されるnoteです。毎日17時に投稿され、一定時間経過後にTwitterで告知されます。(企画詳細
 この1ヶ月はお店の営業がほぼありませんが、僕(店主尾崎)以外の人が何かをやっていることもあるので、ぜひホームページ等をご確認ください。僕もいるかもしれません。
「ぐうたらする」ゆえ今月は6桁の赤字が見込まれております。よろしければ存在への対価というおねだりページをご覧くださいませ。あるいはなんらかの方法で。

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