13 客層、客筋(1) 客が店をつくる

「どんなお客さんが来ますか?」

 これもまた、よくあるご質問。
 けっこう困ります。

 僕も小さなお店に行くと、「ここにはどんな人が来るんだろう?」と気になります。知ってどうするということもないのですが、気になります。
 しかし聞くのはぐっとこらえて、お店の様子から推理してみます。観察眼も養われると思うのでおすすめです。

 お店の雰囲気をつくるのはおおかた「お客さん」なので、そこが気になるのは道理。しかしその「お客さん」をつくるのは、お店です。
 お客はお店を選びますが、お店だってお客を選びます。開店以来何年、何十年とかけてお互いに選びあった結果が、今現在のそのお店の「客層」「客筋」です。

 ゆえに、そのお店や店主、店員の様子をつぶさに観察してみれば、どんなお客を歓迎し、どんなお客を歓迎しないか。どんなお客に愛され、どんなお客に愛されないか、が見えてきます。それによって「こういう人が来るのであろう」とアタリをつけることもできます。
 ストレートに「どんなお客さんが来ますか?」とたずねても、「えー……どんなって言われても……うーん」と言葉を詰まらせ、「いろんな人が来るねえ」とか返ってくるのがたいていです。
 あるいは「演歌歌手のね、〇〇さんってのが来たことあんのよ。ほらこれサイン」みたいな「特殊な例」を2、3挙げられたりして終わったりとか。

 もちろん、客層のおおむね定まったお店というのはあります。たとえばタクシー会社の隣にある居酒屋にはやはりタクシー運転手さんが集まるものです。あるいは、「〇〇業界の人が多い」とハッキリ言える場合もあります。
 夜学バーのごくご近所にも、「製紙や印刷、廃棄物関係の業者さんが集まるお店」というのがあります。「税理士さんが多いお店」というのもあります。「昔なじみの太客(ふときゃく)」が部下や同業の人を連れてきて、その人たちが「常連」として居着いた、とか、ママが独立開業した時に「俺たちに任せろ」と約束をしたので長らく業界総出で支えている、とか。(本当にこういうことはあるのです、感動的です。)
 昔ながらのスナックなんかだと、「〇〇社の〇〇部の人たちが伝統的に利用する」みたいな、ちょっとした専属契約みたいなのがあったりもします。夜の世界の面白いところです。
 あるいは「近所の人」というざっくりした括りで客層を表現できるお店もあると思います。

 これらは「客層」の話で、「客筋」というともうちょっと違ったニュアンス。
 僕のイメージでは、「客層」というとより客観的な、「事実に基づいたお客さんのデータ」という感じ。年齢、性別、職業、収入などなど。いわゆる「金払いの良さ」みたいなのもこっちでしょう。
「客筋」というと、もうちょっと主観的というか、データでは表しづらい、「どんな性質のお客さんか」という傾向みたいな感じ。「客筋がいい」といえば、ほぼイコール「いい人、素敵な人が多い」というような意味になると思います。「マナーの良し悪し」はこっちだと思います。


 ということを踏まえて、わが夜学バーの「客層」を年齢で見るなら、20代、30代、40代がやや多く、10代、50代、60代がそれに次ぐと思います。0代、70代以降もちらほらと。性別については「あまり偏りがないと思います」とだけ書いておきます。お客さんたちの「見た目」や「会話内容」などから年齢や性別を推定した結果、このくらいのことはなんとか言えます。
 それ以外のことはよくわかりません。身長も体重も、職業も裕福さも、好きなものもまちまちだと思います。あまりお客さんの個人情報を知らないのです。
 よくお見かけする方でも、名前さえわからない場合がけっこうあります。「本名を知らない」という意味でなく、「呼び名がない」という意味です。僕は「お客さん」とか「お姉さん」という呼びかけもほぼしないので、ずばり呼びかけずにコミュニケーションをしています。(けっこう難度の高いことだと思うので内心こっそり褒めてほしいです。)

「客層」が説明できない、というのは夜学バーとしては理想の状態です。本当は「どの世代が多いかも言えない」くらいがいいのですが、現状はやはり20〜40代がコア層になっているので、10代以下、また50代以上の人にどんどんおいでいただきたいです。

 なぜ「客層」を説明できない状態が良いのか。それは「夜学バーってこういうお店」と結論を下されるのを避けるためです。
「あのお店は、こういう人たちが集まっているよね」と言われたら、失敗です。
「ウチのお店は、こういう人たちが集まってるんですよ」と胸を張って言えるようになっても、失敗です。

 むりやり説明すれば、「わからない」こそが学びの最大の道しるべだから。
「わかる」「わかった」は花火のように一瞬で消えるべきもの。そしてすぐに新しい「わからない」が登場する。その繰り返しが学ぶこと、生きることです。(ドヤ!)
 
「客層」がある方面に偏ってしまうと、「その方面における学び」に偏ってしまいます。そうすると、「その方面のエキスパート」が「わかる」の独占者になります。
 するとピラミッド型のヒエラルキーが生まれます。誰が偉い、どういう人が素晴らしい、という話になってきます。
 お店は膠着します。流動性を失い、生気をなくし、権威が支配します。
 権威(オオトリテエ!)とは動かないもの。
 遊んだり踊ったりということとはあまり縁がないわけです。


 ただし、「客筋がいい」と言われることは単純に嬉しいです。
「いい人が多い」ということなので。
「いろんな人に来てほしい」とは思いますが、「誰でもいい」というわけではありません。
 いい人に来てほしいのです。
 客が店をつくる、という以上、いい人がお客になってくれなくては、いいお店にはならないのです。

 さて、いい人とは何か? この、夜学バーとかいうお店は、どういう人を「いい人」だと思っているのか?

 長くなりますので、次回に。
 



【定型文】
 2022年6月のみ更新されるnoteです。毎日17時に投稿され、一定時間経過後にTwitterで告知されます。(企画詳細
 この1ヶ月はお店の営業がほぼありませんが、僕(店主尾崎)以外の人が何かをやっていることもあるので、ぜひホームページ等をご確認ください。僕もいるかもしれません。
「ぐうたらする」ゆえ今月は6桁の赤字が見込まれております。よろしければ存在への対価というおねだりページをご覧くださいませ。あるいはなんらかの方法で。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?