14 客層、客筋(2) 店が客をつくる

 客が店をつくる、というのは、「客層」「客筋」によってお店の在り方が変わる、ということ。

 しかしもちろん、「客層」も「客筋」も、お店がつくるものです。
 その意味で、「店が客をつくる」も同様にいえます。

「客が店をつくるが、その客をつくるのは店」

 ということです。


 たとえば宣伝。
 わが夜学バーでしたらば、最初にホームページを作りました。画像をいっさい(地図以外)使わず、長ったらしい文章だけを載せています。2017年の開店以来ずっとそうです。
 名刺サイズのショップカードも、文字しかありません。小さな字で、豆本のように文章が流し込まれたもの。
 いずれも「客を選ぶ」ためです。文章に興味を持った人に来てほしい、と思ったわけです。ビジュアルイメージがあると、それだけ見て「ふうん、こういうお店ね」と判断されかねない。それを避け、とりあえず「なんだこれ?」と思わせたかったわけです。どんなお店なのかを知るためには、文章を読むか、面倒ならば直接足を運ぶしかない、と。

 SNSは主にTwitter。いちばん気を遣っているのは文体です。絶対になれなれしくならないよう。「“常連”に向けられた文体」というのはありまして、それだと来店したことのない人は「お呼びでない」と感じてしまいます。いつでも「いま夜学バーを知った人」が読むことを意識した文体にしているつもりです。

 小さなお店だと、ホームページはなく、SNSも最小限(身内向け)ということがわりとあります。それは「友達の友達」を中心に顧客を得ていったほうが安全で、確実だからだと思います。いわゆる「変なお客さん」が来ないように。ごくライトな会員制とも言えるでしょう。

 ただ夜学バーはその性質上、「身内ノリ」を可能な限り排除し、「誰からの紹介でもない新しいお客さん」が、いつでも来られるようにしておきたいのです。「友達の友達」ばかりだと、「客層」も「客筋」も偏って、閉じていきます。
 閉じた楽しさ、心地よさ、というのはもちろんあり、僕も実際そういうお店がとても好きだったりしますが、開かれているワクワクや、適度な緊張感のあるお店も大好きで、自分がやるんだったらそっちのほうが向いていると思っています。

 あるいは店構え。
「どういう人にとって入りやすいか」「どういう人にとって入りにくいか」によって、当然客層、客筋は変わります。
 透明な路面店なのか、扉の重たい上層階のお店なのか。看板や飾り付けはどうするか。貼り紙をしたり、モノを置いたりするか。できる工夫はさまざまです。


 そして何より、来店してからのこと。どういうお客を歓迎して、どういうお客を歓迎しないか。どういうお店を良いと思って、どういうお店を良いと思わないか。お客とお店とが、さまざまな交流を通じて確認し合います。そして、また来るかどうか、来るとしたらいつ来るか、が暗に決まっていきます。


 残酷に、淘汰は行われます。
 お客はお店を選び、お店もお客を選びます。

 その結果が、いま現在の「客層」「客筋」です。

 お店というものは、「いい人だ」と思ったら歓迎し、思わなかったら歓迎しません。「お客を差別しない」という信念を徹底したお店もあるかもしれませんが、コンビニやファミレスならまだしも、ごく少人数で親密な接客をする小さなお店では、どうしたってなんらかの差は生まれます。
 もし、すべてのお客を同じように歓迎するお店があったとしても、すべてのお客がそれを同様に受け取るかどうかは別の話。合う、合わないという相性は必ずあって、しかも「合う」から「通う」とも限りません。「いいお店だったな」と思って、以後一度も行かない、ということだって非常によくあります。
 人がお店に「通う」ということには、かなり複雑に、多くの要素が絡み合うようなのです。
 お店としては、また来てほしい人に対して「また来てほしい」と思い、もう来てほしくない人には「もう来てほしくない」と思うしかありません。

 その結果が、いま現在の「客層」「客筋」です。

 
 店主として、夜学バーは「客筋がいい」と思っています。なぜそう思うのかというと、ただ単純に、「来てほしいと思うような人に来てもらっている」というだけです。「客筋」というのは前回書いた通り、かなり主観的なニュアンスの言葉なので、特に根拠もなければ、説得力ある説明もできませんが、自分はそう感じています。とてもありがたいことです。

 では、「来てほしい人に来てもらっている」といったときの、「来てほしい人」とはどんな人なのか。

 本当はこの記事で書くつもりだったのですが、やはり長くなってしまったので、また次回に……。




【定型文】
 2022年6月のみ更新されるnoteです。毎日17時に投稿され、一定時間経過後にTwitterで告知されます。(企画詳細
 この1ヶ月はお店の営業がほぼありませんが、僕(店主尾崎)以外の人が何かをやっていることもあるので、ぜひホームページ等をご確認ください。僕もいるかもしれません。
「ぐうたらする」ゆえ今月は6桁の赤字が見込まれております。よろしければ存在への対価というおねだりページをご覧くださいませ。あるいはなんらかの方法で。

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