12 「世間話」からの跳躍

 不特定多数の人が集う場では、普通にしていると「世間話」に終始します。あたりさわりのない、「こういうことってあるよね」「あるある」「キャハ〜」くらいの温かみで進みます。

 夜学バーは「夜学」というくらいなので、あたりさわりのない世間話や、「あれ、いいよね」「いい……」みたいな確認作業のみに終始することを好みません。もちろんそういう会話は、助走としてまたは準備運動として非常に大切なので、むしろ好ましい場面ではあります。ただ、そこにずっといても仕方ないな、とも思います。どこかで「跳躍」したほうが、感動があります。

 跳躍へのきっかけを担うのは、やはりカウンターの中にいる人(店主や従業員)が主です。お客さんはふつう遠慮というものをします。「こんな話をしていいのかな? わかってもらえるかな? 受け入れてもらえるかな?」と、まともな神経であればだいたい逡巡します。

 ふつう、初対面の人や、それほど親しくなってはいない人のいる場では、いわゆる「入り組んだ話」「複雑な話」は避けられます。そこをあえてやっちゃいましょうよ、というのが夜学バーというお店の方針です。

「それってもしかして〇〇ってことですかね?」
 とか、たとえば言えば、「まあ……確かに〇〇ではありますね……」となって、「それもうちょっと聞いてみたいんですけど」と踏み込んでみたら、「んー……若干入り組んだ話になるんですけど」と進み、「ええ、是非お願いします!」と。


「おさかなっておいしいよね」
「おいしいおいしい」
「おさかなさいこう」
「おさかなだいすき」

 ↑このような話をしているときには、やはり店員は出動せねばなりません。

「なんでおさかなっておいしいんでしょうね?」

 とか。

「おさかな好きな人って、〇〇じゃないですか?」

 とか。

「おさかなって××地方では△△として扱われてるんですけど、もしかして□□みたいなこともあるんでしょうかね?」

 とか。

 そのくらいのことで、話題はけっこう跳躍します。それを誰かが、思いもよらないレシーブやトスで受けて、想像もつかないようなアタックが決まったりします。そういうのって、とても知的な遊戯と思います。

 何気ない一言や動作によって、場を跳躍させる。飛翔させる。その宙空で芸術的に演舞する。
 なんてカッコよさそうに書いてみましたが、要はそうやって「楽しむ」ということ。話題の可能性を広げる。それは遊び場を広くすることでもあります。
 



【定型文】
 2022年6月のみ更新されるnoteです。毎日17時に投稿され、一定時間経過後にTwitterで告知されます。(企画詳細
 この1ヶ月はお店の営業がほぼありませんが、僕(店主尾崎)以外の人が何かをやっていることもあるので、ぜひホームページ等をご確認ください。僕もいるかもしれません。
「ぐうたらする」ゆえ今月は6桁の赤字が見込まれております。よろしければ存在への対価というおねだりページをご覧くださいませ。あるいはなんらかの方法で。

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