11 「知ってること言うの禁止!」


「知ってること言うの禁止!」

 あるとき思わず口に出てしまいました。
 いやいや、知ってること言うの当たり前じゃん、知らないことは言えないでしょ。我ながらおかしなことを言ったものです。

 その無茶苦茶さも含めて、なんかなんとなく面白かったので、「知ってること言うの禁止!」は僕の中で静かな流行語となりました。

 知ってること言うの禁止。うーん。実際、知ってることをいっさい言わないのはほとんど不可能だし、知ってることを言ったほうがいい場面はたくさんあります。

 だけども一方、「知ってることばかり言う」のはやはり、イカガナものかと思います。

「それはァ〜。昭和63年に起きたできごとなんですけれどもォ〜。ちなみに昭和63年ってのは西暦でいうと1988年でしてェ〜。ところで西暦ってのが実のところなぜ日本で採用されたのかというとォ〜〜。」

 ↑こういうふうに、延々と自分の「知ってること」を語り続ける人というのが、わりとちゃんと実在します。

 それを「へー」「そうなんですか〜」と聞いていられるのはせいぜい最初の数分だけで、しだいに「ちょっと待て、これはいつまで続くんだ?」と思えてきます。だんだんつらくなってきます。

 そうすると僕も「知ってること言うの禁止!」という無茶苦茶なことを言いたくなってしまうわけです。

 実は、「知ってること言うの禁止!」に至るまでにはけっこう色々ありました。その状態を放置しておきたくはないので、適宜口を挟み、話題を変えたり、戻したり、自分の話をしてみたり、時にはその人の言葉を遮ってでも「そういえば〜」なんて切り込んでみたり。
 しかし、それでもなんとか隙を見つけては「知っていること」を語り続けるのです。その人は明確に悪いことをしているわけではないし、嫌なやつでもないのです。ただ「知っていること」を語り続ける癖があるだけなのです。

 それでもう、しょうがないから「知ってること言うの禁止!」になったのが顛末。それが最善手だったとは思いませんが、もう、口をついて出ました。

「そうやって一人で、特に求められてもいない話を延々と続けられると、この場にいるほかの人はあんまり楽しくないと思うんですよ。少なくとも僕はまったく楽しくありませんし、夜学バーというお店をそういう欲求発散の許される場にしておきたくもないので、お控えくださるようお願いします。」

 そのように言えばよかったのかもしれません。でも、その勇気がなくてなかなか言えず、そうしているうちに、僕は「知っていること」を言ってしまったようです。その人から「知ってること言ってるじゃん!」と指摘されてしまいました。実にしまらない話です。その節は申し訳ありませんでした。

 結局は僕に、勇気がないということなのです。本当は↑のように言えばいいものを、まわりくどい工夫をあれこれやるから、ゴウを煮やして「知ってること言うの禁止!」なんていう無茶苦茶な言葉に結実するのです。
 とはいえその「まわりくどい工夫」こそが夜学バーの本質、とも僕は思っています。それを捨てたくはありません。「そうやって一人で〜」という説教じみた言い方をせず、なんとかうまいこと、自然なかたちで素敵な時間空間を実現させたい、というのが基本的な考え方なので、ぎりぎり冗談に聞こえなくもない「知ってること言うの禁止!」は懸命にひねり出した苦肉の策でもあったのでした。

 もし今後、僕から「知ってること言うの禁止!」という言葉を聞いたら、「ジャッキーさん、お疲れ」とどうかねぎらってやってください。それは「もうギブ!」という断末魔の叫びなのです。

「知ってること言うの禁止」なのだとしたら、いったい何を話せばいいのでしょう。夜学バー的にはそれは「その場で考えたこと」かしら。「思考」を噛ませた言葉が、このお店にはあってほしいです。

 こんなことを書くと、「がんこなラーメン屋の店主」みたいな、頭のかたそうな腕組み人間を想像されるのでしょうか。そうだとしたら僕は嫌です、とちゃんと表明しておきます。一応書いておきますが、僕は髪がサラサラで痩せててかわいい自称9歳のかっこいい青年で、だいたいにこにこしています。よく似ていると言われる有名人は草野マサムネさんと野比のび太です。(つまり頭がおかしいので、ご留意ください。)



【定型文】
 2022年6月のみ更新されるnoteです。毎日17時に投稿され、一定時間経過後にTwitterで告知されます。(企画詳細
 この1ヶ月はお店の営業がほぼありませんが、僕(店主尾崎)以外の人が何かをやっていることもあるので、ぜひホームページ等をご確認ください。僕もいるかもしれません。
「ぐうたらする」ゆえ今月は6桁の赤字が見込まれております。よろしければ存在への対価というおねだりページをご覧くださいませ。あるいはなんらかの方法で。

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