09 夜学バーの選書術

「これ全部読んでるんですか?」

 よく聞かれます。夜学バーのカウンターにはズラーっと本が並んでいて、お店の隅っこにも本が密集しているゾーンが複数あります。

「全部読んでるんですか?」というご質問への答えは簡単に考えれば「読んでません」。複雑に考えると、「全部の本を全部読んでいるわけではないですが、すべての本を少しずつ(最低1文字)は読んでいると思います」というのがわりと適切な答えになります。
「読む」とはいったいなんなのか、ということを考え始めると、一文字でも読んだなら読んだうちに入ると言えなくもないのです。夏目漱石の『草枕』という小説には、「ぱっと開けて、開いた所を、漫然と読んでるのが面白い」という表現があります。

「これは全部、店長さんの本ですか?」
「こちらは店長さんの趣味で集められたものですか?」
「この本の並べかたに何か意味とか、法則があるんですか?」

「全部ではありませんが95%以上は僕の本です。」
「9割以上はそうです。」
「パッと見たときに、よく意味がわからない並び方になるよう心がけています。」

 いずれもよくいただくご質問です。
 大事なのは三つめで、「ああ、こういう趣味の人なんだな」とか「こういう感じのお店なのか」と判断されないような選書を心がけております。
「オシャレ」「サブカル」「オタク」「学術的」「自己啓発っぽい」「文学系」「子ども向け」「趣味の世界」……そういったレッテルを貼ろうにもうまく貼れない、統一感のない本棚を目指しています。

 また、「メジャーすぎる本はできるだけ置かない」ということにも気をつけています。どれだけ選書を頑張っても、村上春樹や伊坂幸太郎が一冊でもあれば、見る人はホッとして「ああ、それ系ね」と判断し、結論を出してしまうからです。
『AKIRA』とか『ナウシカ』も置きません。「ああ、そういうお店ね、見たことあるよ」と思われたら、僕としては敗北です。(誰と戦っているのだ?)

 と言って、「刺さる人には刺さる」本を並べているわけでもありません。「あー、この本! 私好きなんですよ〜」ということも、あまり起きません。(もちろん、たまに起きます。)
 三島由紀夫や谷崎潤一郎を置いてしまうと、「ニヤリ」とされてしまい、「ミシマはね〜晩年はね〜」とか「タニザキってのはぁ〜」と語り出す人が出てきてしまうので、今のところは置いていません。佐藤春夫は何冊もあります。ちょうどいいメジャーさなのです。(単純に好きだからでもあります。)
『星の王子さま』なんて死んでも置かないです。(『ドラえもん』はめっちゃあります。それはただの趣味……。でもそれがまた「意味のわからなさ」の一助となっていると信じます。)

「うわあ……めんどくさい店……」と思われるかもしれません。なぜそんなめんどうくさいことを考えるのか? いったい僕(夜学バー)は、何をいやがっているのか?

 それは「結論を下されること」。
「こういうお店です」と一言で言えないお店であらねばならない、というこだわりと使命感によります。
 もちろん、わかっております。「こういうお店」と一言で説明できたほうが、きっと流行るということを……。儲かるということを……。バズりやすいということを……。

 実際こうして毎日文章を書いていても、まったくバズる気配がありません。令和4年6月いっぱいは毎日17時に更新され、追ってTwitterでも自動的に告知されます。それがリツイートされたり、いいねされることはほとんどありません。多くて数件あるのみです。
 1900くらいのフォロワーがいるのに反応がいつも非常に少ないのは、よほど反応しづらい書き方をしているのだろうと思います。あるいは腫れ物扱いか……。
 みなさん、ぜひとも見かけたら義理リツイート、義理いいねをお願い申し上げます。反応あると本当に嬉しいです。別に「反応してんじゃねーよオラァ!」とか思いませんので。(思ってると思われているのでは、と妄想するくらい何をしてもかなり無風または微風なのです。)

 べつに僕および夜学バーがバズりませんのは、「わかりにくいから」のみではないかもしれません。しかし「わかりにくい」のも大きな要因だとは思います。もっとわかりやすければ、多くの人に理解されたり、共感してもらえたりするんじゃないかと思うのですが、しかし頑なに「わかりにくい」を選び続けております。

「わかった」でおしまいにされたくないからです。「なんだ?」と思われたいからです。「わからない」を出発点にして、どこへでも共に行きたいからです。
 


【定型文】
 2022年6月のみ更新されるnoteです。毎日17時に投稿され、一定時間経過後にTwitterで告知されます。(企画詳細
 この1ヶ月はお店の営業がほぼありませんが、僕(店主尾崎)以外の人が何かをやっていることもあるので、ぜひホームページ等をご確認ください。僕もいるかもしれません。
「ぐうたらする」ゆえ今月は6桁の赤字が見込まれております。よろしければ存在への対価というおねだりページをご覧くださいませ。あるいはなんらかの方法で。

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