ある「ギフテッド」当事者の半生(14) どうしてこうなった

結局のところ、私はその会社に採用されることになった。
二次面接では事業部長と人事部長が対応してくれたが、面接の段階で内定が出ているようなものだった。
 帰りの電車の中で読んだメールには「先ほど口頭でもお伝えした通り〜」と書いてあった。思わずニヤリとしてしまった。

それから、入社に関する書類を集めて再び本社へ。一次面接のNさんは、関東地区のマネージャーだという。Nさんから社内規則の説明を一通り受けて、書類にサインと捺印。希望通り、無期雇用の社員として働けることが決まった。

 配属店舗について。
なんと秋葉原本店であった。自宅から電車を乗り継ぎ、1時間以上はかかる。
それでも全く異論は無かったし、小学生の頃から通い詰めた「世界一の電気街」で働けることを嬉しく、また誇らしく感じていた。

話が少し逸れる。秋葉原にある会社は、少々独特な社風を持つ会社が多い。

 私は父が経営する会社では、損をして得を取れ的なことを言われていた。
具体的に言えば、品物の入れ忘れなど、店側に非があることであれば価格以上のサービスをする。それがお客さんの信用に直結するからだ。

 しかし秋葉原は少し毛並みが異なる。
かつて、ステップというPCショップが秋葉原に存在した。その会社は「5つのNO」ということを掲げていて、商品を「説明しない」「展示しない」「交換しない」「解約しない」「無料サービスはしない」ということである。
ステップはとうの昔に潰れたが、そのような店を許すような街、それが秋葉原である。今ではそこまで露骨ではなくなったものの、「商品の瑕疵以外の解約=返品は受け付けない」「価格以上のサービスはしない」という風潮は、今でも消えていない。
 『北関東YKK戦争』(90年代にヤマダ・コジマ・ケーズデンキがロードサイドで繰り広げた家電の価格競争)のように「安値世界一への挑戦!」なんて謳う店は少なく、むしろ「そっちの方が安いなら、どうぞそちらで」といったスタンスもまだ残っている。
 それを表す一面が「ノルマ一切なし」だ。「お金を出すのはお客さんなんだから」と堂々と言い張るくらいだった。ある意味、とても潔い。

そして、秋葉原はお客さんも特徴的だ。
 大きく分類して3種類。ある人は一見さん。ある人は相応の知識があるマニア。
そしてある人は業者である。面白いのが三番目の業者さんであるが、後々話す事にしよう。

そんな面白く、またカオスな街で働き始めたのは、2019年3月の事だった。
 まだコロナウィルスの影すら無かった頃だ。

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