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特別展「海 ―生命のみなもと―」レポート①

レポが遅くなってしまい、申し訳ありません。
7月19日に、国立科学博物館の特別展「海 ―生命のみなもと―」に行ってきました。海について、生物学、考古学、海底資源など、様々な視点からの展示が行われていました。今日から何回かに分けてレポしていきます。


小惑星リュウグウと水の起源

まず最初の展示が、小惑星探査機「はやぶさ2」と小惑星リュウグウに関するものです。はやぶさ2が撮影した映像や採集したサンプル、模型が展示されていました。

何で海に関する特別展なのに小惑星から始まるのかと思う方もいるでしょう。小惑星には太陽系が誕生したばかりの頃の情報が詰まっており、これを調べる事で、太陽系、そして地球がどのようにしてできたのかが分かると言われています。

はやぶさ2がリュウグウで採集したサンプルからは液体の水が発見された他、サンプルに含まれる鉱物の多くが水の存在下で形成された事も分かりました。また、炭素を始め有機物を構成する元素や、2万種以上の有機分子も含まれ、その中に生命の重要な構成要素であるアミノ酸や核酸も含まれる事が分かりました。

これらの事から、地球を作っていった微惑星の中に有機物を含む水が含まれており、地球が出来上がった後に大気中に出てきて、やがて海になっていったと考えられます。その中に生命の材料も含まれており、生命誕生の環境が整えられていったのです。

海の誕生、生命の誕生

縞状鉄鉱層
太古代(38億年前)
中国・遼寧省
礫岩
太古代(38億年前)
グリーンランド・イスア地域

誕生したばかりの頃は高温のマグマで覆われていた地球ですが、やがて冷えていくと、水蒸気が熱い雨となって降り注ぎ、海ができたと考えられます。ここに展示されているのは地球上で特に古い堆積岩達。これらが形成されるには水が必要なのです。これらの地質記録から、少なくとも40億年前には海が存在していた事が分かっています。

個人的に驚いた標本がこれ。石英の中に閉じ込められた24億年前の海水です。まさか大昔の海水そのものが残されているとは。

実際に顕微鏡で見ると、気泡が動いている様子が観察できるそうです。
また、成分の分析も行われており、今よりも塩分濃度が高かったようです。

熱水噴出域の模型
炭酸塩チムニー
大西洋・ロストシティ熱水域
(水深約800m)

生命が誕生した場所については様々な説がありますが、現在最も有力なのが海底の熱水噴出孔(チムニー)です。

これまで黒いチムニーが紹介される事が多かったですが、ここに展示されているのは白色。他のチムニーの熱水は酸性で、黒い硫化物を沈殿させるのに対し、このロストシティのチムニーはアルカリ性で、炭酸塩やシリカなどの白い鉱物を沈殿させます。

また、高濃度の水素ガスに加え、非生物由来の有機物も確認されており、このような白いチムニーで生命が誕生した可能性が高いと考えられています。

脊椎動物の進化

ストロマトライトや多細胞生物の誕生の展示を経由し、魚類を中心とした、脊椎動物の進化の展示に移ります。ここに展示されている標本、特に化石は、国内に所蔵されている中でもトップクラスのものを集めたのではと思うくらいすごいものばかりです。(スマホの写真なのと、僕の撮影技術のために、保存状態の良さが伝わりきっていないです。すいません…)

初期の脊索動物の代表、ピカイアPikaia gracidens。かつては我々脊椎動物の祖先として紹介されてきましたが、より古い地層から脊椎動物そのものが発見されたのもあり、現在では我々の祖先そのものではないと考えられています。
とはいえ、ピカイアに似た動物から脊椎動物が誕生した事は間違いないでしょう。

現生種の標本もすごいです。ナメクジウオの代表として展示されているのがゲイコツナメクジウオAsymmetron inferum。和名の通り、鯨骨生物群集の一員です。

それだけでなく、現生のナメクジウオの中で最も古い系統に属し、唯一深海に生息するなど、ナメクジウオの中でも特徴的な種のようです。

ピカイアやナメクジウオ、ホヤよりも系統上脊椎動物に近い位置に置かれているのがユンナノズーンYunnanozoon lividum。これまで脊索動物かどうか議論が続いてきましたが、現在では脊索動物ではないかという説で決着が付きつつあるそうです。

現在知られている限り最古の脊椎動物の1つ、ハイコウイクチスHaikouichthys ercaicunensis。ピカイアやユンナノズーンなどとは違い、はっきりとした目が残されています。

日本で最も保存状態の良いコノドント、クラーキナClarkina sp.。コノドントは歯のみが化石に残される事が多く、それ以外はあまり見つかっていないのですが、この化石は目が残されています。まさか日本からコノドントの体が見つかっているとは。

ここからガラスの反射が酷い写真が多いです。すみません。

ビルケニア
Birkenia elegans
欠甲類
ロガネリア
Loganellia scotica
歯鱗類

これまで図鑑の挿絵でしか見た事の無かったビルケニアとロガネリアを実際に見る事ができました。他の標本も含め、古生代の無顎類の多様性を感じます。

軟骨魚類は、サメやエイが含まれる板鰓類とギンザメが含まれる全頭類に分けられます。まずは板鰓類側から。
エガートノダスEgertonodus sp.はサメの中でも、ヒボドゥス類という白亜期末に絶滅したグループに属します。

軟骨魚類の骨は化石に残りづらく、残っている化石もペシャンコに潰れているものが多いのですが、この化石は骨が立体的に残されています。

ミツクリザメMitsukurina owstoni。深海ザメの中でも特に有名なものの1つですが、白亜紀にはごく近縁で、姿もミツクリザメによく似た種類がより浅い場所に生息していたようです。

ファルカトゥス
Falcatus falcatus
シンモリウム目
ベラントセア
Belantosea montana
ペタロドゥス目
エキノキマエラ
Echinochimaera meltoni
ギンザメ目

続いて全頭類。現在ではギンザメの仲間しか生き残っていませんが、古生代には、サメに似た体型のファルカトゥスや底生魚らしい体つきのベラントセアなど、多種多様だったようです。
その中でも、エキノキマエラは現生のギンザメに繋がる系統として展示されており、ギンザメによく似た姿をしています。

現生のギンザメChimaera phantasmaは板鰓類のサメやエイとは大きく異なる姿ですが、上述の化石を見ると、全頭類にはサメのようなものからそうでないものまで様々なものがおり、その中の一部が現在まで生き残ったに過ぎない事が分かります。
長年「最古のサメ」と言われてきたクラドセラケが近年では全頭類に分類されており、板鰓類と全頭類の違いはこれまで考えられてきたほどはっきりしたものではないのかもしれません。


ケイロレピスCheirolepis canadensis。アジやコイなど、多くの人が魚と聞いてぱっと思い浮かべるようなもの達が含まれる条鰭類に属します。後述する肉鰭類と比べると鱗が小さいです。そのため、体を柔軟に動かす事ができたでしょう。

ラブドデルマ
Rhabdoderma sp.
ワイティア
Whiteia sp.
ワイティアの一部拡大。
側線らしきものが見える。

石炭紀のラブドデルマに三畳紀のワイティア。どちらも現生のシーラカンスとあまり姿が変わりません。鱗の1枚1枚、鰭条の1歩1本まできれいに残っており、凄まじいです。

デボン紀のハイギョ、スカウメナキアScaumenacia curta。全身が立体的に残されており、まるで生きていた時ほぼそのままのようです。

現生のオーストラリアハイギョNeoceratodus forsteri。デボン紀のスカウメナキアとあまり姿が変わりません。4億年も前からほとんど同じ姿というのは驚きです。

パレオスポンディルスPalaeospondylus gunniは、長い間分類の議論が続いてきましたが、ここでは2022年の研究に基づき、エウステノプテロンよりも四肢動物に近い位置に置かれています。歯や胸びれ、腹びれなどが無い事から、幼生の可能性が指摘されており、両生類などの幼生の起源はここまで遡る可能性があるようです。


脊椎動物の進化の展示の最後を飾るのは、インドネシアシーラカンスLatimeria menadoensisの貴重な実物標本。まさかこの目で見られるとは。

非常に見やすい位置に展示されており、細部まで観察できます。第一、第三背びれの前方の鰭条や第二背びれと第一尻びれの間にある一部の鱗の表面がゴツゴツしているのが分かります。

今回はここまで。次回は日本周辺の海についてです。もっと早く更新できるようにします。

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