#339 最終日だから無敵な店員
ナオキは深夜のコンビニに入ると、パスタとビールを持ってレジへと向かった。
「しゃせ・・。」
やる気のなさそうな若い男のアルバイトが、レジで無愛想に立っていた。ナオキがレジに商品を置くと、そそくさとバーゴードを読み取る。
「あ、あとタバコの42番いいですか。」
ナオキがそう伝えると、店員はニヤついた。
「ダメです。」
「え?」
「さーせん。ダメっすね。」
店員はナオキを小馬鹿にする様な笑顔でそう言った。
「え、ダメ?42番ありますよね?」
「はい。」
「え?じゃあ42番お願いします。」
「ダメです。」
「なんで!?」
「あ、嫌なんで・・。」
「は!?」
「ダメっすね・・。」
「いやいや!ダメとかないでしょ!こっち客ですよ!」
「はい。」
「いいからタバコの42番くださいよ!」
「ダメです・・。」
「え?なに?タバコ嫌いな人?」
「いや・・違いますよ?」
「じゃあ42番ください!」
「だからダメです。」
「おかしいだろ!商品あるのにダメって絶対おかしいよ!」
すると店員は大きくうなずいた。
「はい。おかしいです。」
「は!?」
「俺、おかしいんですよ。」
店員はニヤニヤしながらそう言った。
「あ・・・。」
ナオキは何かを察したようだ。
「めっちゃ深夜のコンビニ店員じゃん・・。」
「はい。」
「やば・・。」
「はい。やばいっすよ。俺。」
「自覚あるやつが一番やばいんだよな、こういうのって!」
「え、タバコ欲しいっすか?」
「うん、欲しいよ。」
「ダメっすね!」
「うわ、ヤバこいつ!ちょっともうダメだ!店長呼んで!」
「ダメです。」
「いやダメとかねえだろ!」
「今日店長いないんで!俺マジで今日無敵なんすよ!」
店員はそう言うとレジ横の肉まんを食べ始めた。
「え、嘘でしょ!?」
「食べます?」
「は?」
「ダメです。食べさせないです。」
「こいつヤバすぎだろマジで!もういいわ!じゃあ俺直接本社にクレームの電話入れてやるよ!」
「あ、いいっすよ。」
「え、お前クビになるよ?」
「はい。全然大丈夫です。俺今日最終日なんすよ。」
「マジかよ!マジで無敵じゃねえか!」
「大学卒業して就職するんで。」
「ゴミ学生がよお!なんでお前みたいなやつが就職できんだよ!」
「ま、東大行ってるんで。」
「クソエリートじゃねえかよ!」
「あざす。あー、マジ肉まんうめえ。」
「あ、こいつ多分勉強しすぎて頭おかしくなったタイプだ!」
「このタイミングでバックれてみてもいいっすか?」
「良いわけねえだろ!マジでお前みたいなやつろくな大人にならねえからな!就職っていってもどうせクソみたいな企業なんだろ?」
「医薬品メーカーです。親が副社長やってて。俺ね、実家が青山にあんすよ。」
「こいつ生まれながらの勝ち組かよ!」
「あざす。」
「なんだよ!!!なんで真面目に生きてる俺より、不真面目なこいつのほうが人生うまくいってんだよ!!!人生クソくらえだな!!!!」
「あー、肉まんうめえ。」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?