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#563 反撃させない男

「ちょっとすみません!」

ノブオがコンビニの傘立てから傘を取ると、後ろから少し怒気をはらんだ男の声が聞こえた。

「それ僕の傘ですよね?」

男はノブオが手に取った傘を指差しながら近づいてきた。

「え?これお兄さんのですか?」

「そうですよ!」

「いやいやいや!これ俺のですよ!マジで!今家から持ってきたやつなんで!間違えようがないです!」

「いや、マジで俺のなんで!あんたのこっちでしょ?」

男はそう言って、傘立てに刺してあった少しボロ目の傘を指差した。

「いや、違いますって!俺の傘はこれなんで!これはあなたのでしょ?」

「ちげーって!マジで最悪だよ!泥棒じゃん!」

「いや、泥棒じゃないでしょ!」

「泥棒!カス!オメーみてえなやつのせいでこの国がダメになるんだよ!泥棒!クソ!カス!」

「あ?なんだオメーさっきから!やんのかこの野郎!」

ノブオが男に詰め寄ると、男は急に腰が低くなった。

「いや、すみませんでした。」

「あ!?」

「すみません、申し訳なかったです。」

「な、な、なんだよ・・。なんで急にそんな感じになったんだよ・・。」

「いや、ホントに申し訳ないなって思いましたので。はい。すみませんでした。」

「なんだ、お前。じゃあこの傘は俺のってことでいいな?」

「いや、それは違いますよ?」

「は?」

「傘に関しては完全に僕のなんで。そこに関しては絶対間違ってないですから。」

「いやいや!俺のだって!」

「いや、絶対に僕のです!」

「じゃあ証拠見せろよ!なあ!この傘がお前のだって証拠を!」

「だったらあなたが先に見せてくださいよ!あんただって証拠ないでしょ?」

「いや、それはそうだけど・・。」

「バーカ!アホ!めちゃめちゃ頭わりーな!そんなんだから自分の傘がどれかもわかんねえんだよ!カス!アホ!ボケ!」

「オメーなんだ、やんのか!?」

「あ、すみませんでした・・。」

「それやめろよ!」

「申し訳なかったです。ホントにすみませんでした。」

「俺にも反撃させろよ!なんで一方的に責められて終わっちゃうんだよ!」

「心の底から反省してます。」

「してねえだろ!反省してたらあんな態度取らねえよ!」

「いや、本当に反省してます。」

「いや、してねえだろ!口だけだろうが!」

「反省してますって!」

「してねえだろ!」

「反省してるって言ってんだろうがよ!なんでわかんねえんだよ!クソが!」

「また本性表したな!」

「クソが!オメー臭えんだよ!汚えな!オメーがいると街が汚れんだよ!雑魚!」

「もういいって!」

「なんだ逃げんのか?かかってこいよ!」

「いや、オメーこそどうせ逃げんだろ!」

「うわうわ!なんか言ってますわ!汚え空気吐きながら、何か言ってますわ!」

「マジでやんだな!?」

「おい、かかってこいよ!」

「わかったよ、じゃあやってやるよ!」

「すみませんでした!」

「やめろ!!!!」

「本当に申し訳ありませんでした。」

「ふざけんなお前!かかってこいよ!おい!」

「いや、そんな。本当に申し訳ありませんでした。」

「おい、カス!雑魚!ビビってんのか、おい!」

「はい。おっしゃるとおりでございます。」

「逃げんのかよ!カス!雑魚!」

「もう反論の余地はございません。」

「カス!」

「申し訳ありませんでした。」

「なんで俺が悪者みたいになってんだよ!最悪だよ!」

「あ、もうこの傘も差し上げますんで。」

「は?」

「もうお兄さんのってことで大丈夫です。」

「は?なにその感じ。元々俺のだから。」

「あ・・・そうですよね。もうそれで。」

「おい、大人の対応みたいにするのやめろよ!」

「僕新しい傘買うんで。なんか、ホントすみませんでした。」

男はコンビニの中へと消えていった。

「・・・なんで俺が負けたみたいになってんの?」

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