見出し画像

#131 練習の意図を忘れちゃった男

「よし、じゃあ今日はパスの練習をやっていこう。」

「はい。」

夜の体育館で、コーチと選手のマンツーマンの居残り練習が始まった。

「やっぱりバスケットにはシュートも大事だけど、周りを見ながらパスを出すことも大事なんだ。じゃあ一回普段どおりパス出してみようか。」

「はい。」

「いくぞ!」

コーチは選手にボールを渡した。

選手はボールを受け取ると、実戦さながらの動きでドリブルを挟んでからコーチにパスを出した。

「オッケー!」

パスを見たコーチが選手にアドバイスを送る。

「今のだとパスするのが相手にバレバレだな。いいか、パスを出すことが読まれていたら、パスコース塞がれちゃうから。相手を騙していかないと。コツとしては、相手にもっとシュート打つと思わせる。」

「シュートを打つと思わせる?」

「そうだ。ちょっと見てみろ。」

コーチはそう言うと、自ら動きを実践してみた。まずはボールをドリブルする。

「シュート打つぞ、シュート打つぞ。そう思わせろ。」

コーチはしきりに目線をゴールに向け、シュートを打ちそうなモーションに入った。

「そこからのパスだ。」

コーチはシュートのモーションを切り替え、選手の胸にパスを出した。

「こういう感じだ。わかったか?」

「はい。」

「よし、じゃあやってみろ。シュートを打つと思わせろ。いくぞ!」

コーチは選手にボールを渡した。

「シュート打つぞ!シュート打つぞ!」

選手はシュートを打つ雰囲気を出しながらドリブルをした。

「おー、いいね!その感じその感じ!」

「シュート打つぞ!」

「シュート打ちそうな感じ出てる!パスコース開けるぞ!」

「シュート打つぞ!」

選手は高く飛び上がった。そして。

「えい!」

ゴールネットに向けて綺麗なシュートを放った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?