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#273 部屋にゴキブリが出た女

初めてのお家デート。2人はユリの部屋のソファーに座って映画を見ていた。

すると突然、ユリが大きな声を上げた。

「きゃー!ケンくん大変!」

「どうしたのユリちゃん?」

「ゴキブリがいる!!!」

ユリはゴキブリがいる壁を指差した。その指は震えていた。

「やだ、大変!!!」

「大丈夫だよユリちゃん!」

「きゃー、どうしよう!どうしよう!」

ユリは大きな声を出しながらあたふたしながらゴキブリから目をそらした。ケンはその姿を見て少し笑顔になった。

「大丈夫だって!もう、ユリちゃん可愛いなぁ!」

「どうしよう!どうしたらいいの?まず写真?」

「いや写真は撮る必要ないよ。」

ケンはいいところを見せようと、腕まくりをしてソファーから立ち上がった。

そして、先ほど飲み終えたばかりのお茶のペットボトルを持ってゴキブリに近づき、ゴキブリを思い切り叩いた。ペットボトルはゴキブリに命中し、床にぽとりと落ちた。

「もう大丈夫だよユリちゃん。」

ケンは叩き潰したゴキブリをティッシュでくるみながらユリに言った。

「ゴキブリ倒したから。」

「え?」

「もう安心して。」

その言葉を聞いたユリは真顔になった。

「え?倒したってどういうこと?」

「ん?ああ、このペットボトルで叩いて殺したよ。」

「は?なにやってんの!?」

ユリの声は怒りに満ちていた。

「いや、なにやってんのって・・。ユリちゃんがすごい怖がってたから。」

「怖がってた!?何言ってんの!?」

「え?いやでも、すごい大っきい声出して慌ててたから・・。」

「そりゃそうでしょ!?自分の部屋で初めて見る生のゴキブリだよ!?」

「えぇ!?」

「私の大切なゴキブリに何してくれてんのよ!!」

「え、怖がってたんじゃなかったの!?好きすぎてああなってたんだ!初めて生で好きな芸能人見た時みたいな!あ、だから写真撮ろうとしてたのか!!」

「最低・・。」

ユリは泣き出した。

「え、ちょ、ユリちゃん!?」

「・・・出てって。」

「いやいやいや!ちょっと待ってよ!」

「出てってよ!!!」

「え、良かれと思って倒しただけなのに・・。」

「私、昔からゴキブリが出る家にすごく憧れがあって・・」

「え、なんで!?」

「ゴキブリってさ、黒くてかっこよくて早くて頑丈で。なんかベンツみたいじゃない?」

「あ、ごめん全然共感できないなぁ・・。」

「私も家にベンツ走らせたいなーって、高級感があるなーって、ゴキブリが出る家にずっと憧れてたの。」

「ごめん、マジで全然共感できないわ!」

「でも私の実家は北海道だから、どんなに頑張っても生のゴキブリに会えなくて。それで私、頑張ってお金貯めて上京してきたの。」

「なんか知りたくなかったな!諸々知りたくなかったわ!」

「私はね!!生のゴキブリに会うために、色々頑張ってたんだよ!?」

「生のゴキブリって言うのやめてもらっていいかな!?」

「できるだけ掃除機かけないようにしたし!わざと床の上でサクサクのクロワッサン食べたりもした!」

「ちゃんと掃除しな!?汚いよ!?」

「それでようやく生のゴキブリが出たのに!ケンくんひどいよ!」

「嫌かもなー!ユリちゃんがこんな子だと思わなかったな!嫌かもなー!」

「ペットボトルで潰しちゃうなんて・・。」

「でも大丈夫だよ!ゴキブリは1匹出たら、100匹いるって言うし!」

「その言葉に科学的根拠は無いのよ!ゴキブリは一回の産卵で30匹くらいの幼虫が産まれるけど、すぐに散り散りになるし、成虫になる可能性はほんの数%って言われてるのよ!」

「詳しいなぁ!なんか嫌だわ!」

「あ、もしかして!私がゴキブリのこと好きで嫉妬してるの!?だからこんな真似したの!?」

「そんなわけないだろ!!」

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