#564 全て見える女
「人生に迷い、もう自分ではどうしたらいいのかわからなくなってしまって・・。」
「それで、あなたはこの館の扉を開いたのですね。」
占い師が尋ねると、男は静かに頷いた。
「なるほど。あなたは素晴らしい選択をしました。私には全てがわかります。」
「本当ですか?」
「ええ。あなたの迷える心を、私が正しい方向へ導いて差し上げましょう。では、こちらに右の手のひらを見せてください。」
男は机の上にゆっくりと手を出した。
「どうぞ、リラックスなさい。」
「こういう占いって初めてなので、どうも緊張してしまって。」
「何も怖がる必要はありませんよ。私には全てが見えるのですから。では、失礼いたします。」
占い師は男の手を覗いた。
「なるほど。あなたは今、恋人との関係で悩んでらっしゃる?」
「え、手相でそんなことがわかるんですか?」
「悩んでらっしゃるんですね?」
「はい。」
男が頷くと、占い師は大きく手を叩いた。
「よっし!」
「え?」
「ほら、わかった!当てた!当てちゃった!すごいでしょ!」
「え?ああ・・。」
「ね!わかっちゃうの!私の手にかかれば、なんだってお見通し!よっし!」
占い師は嬉しそうに笑うと、再び男の手を覗いた。
「あー、なるほどね。恋人が浮気してるかもしれない・・?」
「・・・はい。」
「よぉーし!!!!」
「あ、ちょっと・・。」
「ね!すごいでしょ!?ね!こういうことなの!全部わかっちゃうの、私!」
「あの・・すごいのはわかったんで。どうしたらいいのかを教えていただきたいんですけど。」
「恋人とは〜・・・3年前に知り合った?」
「ええ。」
「オッケーィ!!!」
「いや、クイズじゃないんで!」
「全て見えちゃう!見えちゃうが止まらない!昨日だってこうだったし、一昨日もこうだった!なんでだかわかる?ねえ、なんでだかわかる?」
「いや、わかんないですよ・・。」
「私が・・すごいから!よぉーし!!!!」
「ちょっともうなんなんですか!僕あなたの快感のためにお金払ったんじゃないんですけど!」
「見えるぅぅ〜!!!ああ、すっごい!!今日いつもより見えるわ!え、え、え、ちょっと待って!?すごい!今日すごい見える!!!」
「いや、知らないですよ!」
「あなた不動産系の仕事してて、3歳下に弟さんがいて、母親が再婚した父親との関係に少し悩んでいるでしょ?」
「まあ、当たってますけど・・。」
「よぉーし!!!!」
「もういいって・・。」
「またステップアップしちゃった!」
「うるせえよ!」
「どんどん凄くなっちゃう、私!」
「もうわかったから!それより、僕は彼女と今後どうしたらいいのか、教えて下さいよ!」
「うーん、そうだね!・・・頑張れ!」
「は!?」
「頑張れだね!頑張れとしか言いようがない!」
「占い師が一番言っちゃいけない言葉だろ、それ!」
「そもそも、ね?どうしたらいいかわからないものを、手探りで答えを探す。これが人生の醍醐味だから。すぐ知ろうとするって、浅はか。」
「なんだお前!」
「とにかく頑張れ!」
「能力すごいけど、ぼったくりじゃねえか!」
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