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#250 電話の内容が気になっちゃった男

来週に迫った試験のため、僕は近所のカフェに向かった。

僕はアイスコーヒーの大きいサイズを注文した後、参考書とノートを広げた。しばらく勉強をすすめると、僕の隣のテーブルに作業員風の男が座ってきた。

「うん。そう。で、それは明日の朝にまた連絡が入るから。」

男は誰かと電話をしていた。

「そう。うん。3ヶ月に一回の掃除はしなくていいから。そう。で、後ろの棚あるでしょ?2階の。うん、そこにさ、新しい型のやつが入ってるのよ。それをね・・うん。あ、3ヶ月に一回の掃除はしなくていい。しなくていいから。そう。・・・で、その新しい型のやつをもう出しちゃっていいから。ちなみにコードは何本出てる?・・・あ、そう。なるほどね?ん?・・・いやだから、3ヶ月に一回の掃除はしなくていいのよ!しなくていいから!もういいの、それは!とりあえず棚から出しちゃって?出した?・・・うん。いやだから!3ヶ月に一回の掃除はしなくていいって!しなくていいのよ!そう!で、・・ん?なに?だから!3ヶ月に一回の掃除はしなくていいから!いいのそれは!とにかくね、配線のこと一回終わらせてくれればいいから!そう!だから棚から出して・・・いや3ヶ月に一回の掃除はしなくていい!しなくていいの!うん!違う!3ヶ月に一回の掃除はしなくていいから!」

僕は全く勉強が手に付かなくなっていた。

なぜ電話先の相手はそこまでして3ヶ月に一回の掃除とやらをしようとしているのだろうか。そもそも3ヶ月に一回の掃除って一体何なんだ?どこの何を3ヶ月に一回掃除しているんだ?

「ダメ!3ヶ月に一回の掃除はしちゃダメ!ダメだって!やめろ!やめろって!3ヶ月に一回の掃除やらないで!頼む、お願い!3ヶ月に一回の掃除やらないで!」

男は電話の相手に向かって必死に頼み込んだ。

「ホントか?やってないか?・・・じゃあなんだその音は?3ヶ月に一回の掃除してる音じゃないか?いや、その音は3ヶ月に一回の掃除してる音だろ!やめろって!3ヶ月に一回の掃除しなくていいって!」

男が大きな声で電話していると、店のどこかから女の声がした。

「もうやらせてあげたらいいんじゃないですか?」

男の奥のテーブルに座っていたOLが、男を睨みつけながら立っていた。

「3ヶ月に一回の掃除、やらせてあげたらいいんじゃないですか?私にはそれが何なのかはわかりませんけど、ここまでしてやりたがってるならやらせてあげたほうがいいですよ!」

「あなたには関係ないでしょ?」

「関係ないかもしれませんけど、気になるんですよ!私さっきから仕事の資料作ってるのに、3ヶ月に一回の掃除のせいで全然集中できないんです!もうやらせてあげてください!」

「ダメなんですよ!3ヶ月に一回の掃除なんで!」

「いいじゃないですか!こんなにやりたがってるんですよ?」

「まだ2週間しか経ってないんでダメです!」

「別に2週間しか経ってなくてもいいじゃないですか!」

「ダメです!3ヶ月に一回の掃除なんで!とにかくあなたは黙っててください!」

男は電話に戻った。

「おい、やってるだろ!3ヶ月に一回の掃除やってるだろ!」

するとそこに若い男の店員がやってきた。

「お客様失礼します。」

「ん?・・・なんですか?」

「他のお客様のご迷惑となりますので、3ヶ月に一回の掃除やらせてあげてもらってもいいですか?」

電話してることを注意するんじゃないんだ。僕はそう思った。

「これ以上3ヶ月に一回の掃除をやらせないようでしたら、このお店から出てってください。」

「なんでそこまでしないといけないんですか?じゃあもうわかりました。電話切りますから!」

「ダメです!今電話を切ったら、3ヶ月に一回の掃除が結局どうなったのか気になっちゃうんで!だからやらせてあげてください!」

「そうですよ!」

OLもこのやりとりに加わった。

「なんでこうも融通が利かないんですか!3ヶ月に一回の掃除やらせてあげてください!ほら、あなたからもお願いしてください!」

OLは僕に話を振ってきた。

「え、あ、僕ですか?」

「あなたも聞こえてましたよね?3ヶ月に一回の掃除、やらせてあげたいですよね?」

「え・・・今さらですけど3ヶ月に一回の掃除ってなんなんですか!?」

「お願いします!やらせてあげてください!」

「私からもお願いです!やらせてあげてください!」

OLと店員は男に向かって頭を下げた。

「ほら、あなたからもお願いして!」

「え・・・あ、え?」

「もう!クーポン券お渡ししますので!」

店員は僕に15%OFFのクーポン券を渡してきた。

「え、ここまでします?」

「ほら早く!頭下げて!」

「・・・・え?」

僕は言われるがまま頭を下げた。

「ほら言って!3ヶ月に一回の掃除やらせてあげてくださいって!」

「・・・3ヶ月に一回の掃除・・やらせてあげてください・・。」

「お願いします!!」

「お願いします!!」

僕はただテスト勉強をしにきただけなのに。なぜ頭を下げているんだ?

そんな疑問をいだきながら頭を下げていると、1人の若い男が店に入ってきた。

「棟梁!やっぱりここにいた!」

「ミツル・・。」

「棟梁!お願いです!3ヶ月に一回の掃除、僕にやらせてください!!」

電話の相手、君だったのか。

店に入ってきた若い男は、手に雑巾を持っていた。

「ダメだと言っているだろ!」

「お願いです!やりたいんです!3ヶ月に一回の掃除、やらせてください!」

「僕からも!やらせてあげてください!」

「私からも!お願いします!」

OLと店員は改めて頭を下げた。

「お願いします!」

なぜか僕も頭を下げた。

「・・・・勝手にしろ!」

男はそう吐き捨てた。

「棟梁?」

「もう俺は知らん!ミツルの勝手にしろ!」

「・・・ていうことは。3ヶ月に一回の掃除、やっていいんですか?」

「そのかわり、ピカピカにしろよ!」

「ありがとうございます!!!!!」

若い男は、そう言って頭を深々と下げた。その目からは涙が溢れていた。

3ヶ月に一回の掃除って、いったいなんなんだろう。

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