#337 バカすぎるサラリーマン
デスクの上の社内電話が鳴る。キモトはパソコンから手を離し、受話器を取った。
「お疲れさまです。企画部のハシモトです。」
「あー、ハシモトさん。お疲れ様です、キモトです。」
「あ、お疲れさまです。今月末の展示会の件でちょっとご相談がありまして。」
「はいはい。ていうか先日はありがとうございました。」
「え?あー、この前の飲み会の件ですか?」
「そうです。あの後大丈夫でした?帰れました?」
「いやもうあの後専務が酔っ払っちゃって。大変でしたよ。結局カラオケ連れてかれちゃって。」
「あー、そうでしたか。」
「専務がもうベロベロで、ずーっとマジンガーZ歌ってましたよ。」
「はっはっは、酔っ払うと毎回歌いますよね。なんなんですかねあれ。」
「もうマイク離さないんですよ。延々マジンガーZ聞かされて。」
「はっはっは!」
「なんかやたら声出てるし。60近いっていうのに。」
「はっはっは!」
キモトはハシモトの話にケラケラと笑い、手を叩く要領で受話器を電話機に何度か叩きつけた。
「いやーホント酔っ払うと毎回そうですよね!ていうかいけない!全然仕事と関係ない話しちゃいましたね!で、なんでしたっけ?」
キモトは内線がすでに切れているのに気づかず、受話器に話しかけた。
「あれ?もしもし?もしもーし・・・切れてるな。」
キモトは首をひねりながらそっと受話器を置いた。そしてほどなくすると再び内線が鳴った。
「お疲れさまです。企画部ハシモトです。」
「あー、キモトです!ハシモトさん、なんかさっき切りました?」
「いや、切ってないですけど。急にガチャって切れちゃって。」
「ホントですか?なんか調子悪いんですかね。あ、ていうかごめんなさい。要件なんでしたっけ?」
「あー、すみません!今月末の展示会の件で。」
「あー、はいはい!どうされました?」
「展示会のチラシのデザインお願いしたいんですけど。」
「わかりました。前回みたいな感じで問題ないですよね?」
「はい。」
「オッケーです。じゃあデザインしてそのまま印刷会社に発注かけちゃいますね。何部くらい用意します?」
「あー、そこなんですよね。前回は1000枚で結構余り出ちゃって。」
「んー、そっかあ。」
「ただ今回は若干前回よりも規模が大きいので。」
「んー。」
キモトは少し悩んでから何かをひらめいたよな表情になった。
「あ、じゃあこうしましょう!」
キモトは手を叩く要領でまたしても受話器を電話機に叩きつけた。
「一旦500枚で発注しちゃって、足りないようだったらもうちょっと発注しますか?」
キモトは切れている受話器に話しかけた。
「あれ?もしもし?・・・もしもーし!・・なんだよ、また切れちゃったよ。」
キモトは首を捻りながらそっと受話器を置いた。するとすぐさま内線が鳴った。
「はい。キモトです。」
「あ、ハシモトです。」
「また切れちゃいましたね。切りました?」
「いや切ってないですね。キモトさん切ってません?」
「え?いや僕は絶対切ってないですよ。」
「ホントですか?なんかさっきからすごい音しながら急に切れちゃうんですよね。」
「なんですかねー。あ、そういえば何の話でしたっけ?」
「あー!あのーチラシの発注の〜・・・」
「あー!そうだ!」
キモトは思い出した反動で受話器を電話機に叩きつけた。
「何枚発注するかですよね?ちなみに前回って何枚くらい余りました?」
キモトは受話器に向かって話しかけたが、ツー、ツーと音がなるだけだった。
「もしもし!?もしもし!もしもーし!!・・・また切れたよ!!」
キモトは不機嫌そうに受話器を置いた。
「なんで毎回切れちゃうんだよ!あれ、なんか回線がおかしいのか!?」
キモトは電話機の周りの配線を確かめた。
「いや、問題ないな!なんだよこれ!全然話進まないよ!」
キモトがイライラしていると再び内線が鳴った。
「もしもしキモトです!」
「ハシモトです。」
「ちょ、な、すごい切れるんですけど!なんかそっちで切ってません?」
「いや切ってないですよ。キモトさんの方で切れてる気がするんですけど。」
「いやこっちは何もやってないですよ!」
「ホントですか?でも毎回爆発音みたいな音と共に切れるんですけど。」
「爆発音?いやいや知らないですよ!」
「そっちで切ってません?」
「切ってないですよ!何もやってないって言ってるでしょ!」
キモトは怒りをぶつけるように受話器を電話機に叩きつけた。
「そっちの回線とかがおかしいんじゃないですか?一回確認してみてくださいよ!」
キモトはイライラとした口調で受話器に向かって話したが、電話は切れていた。
「もしもし!?えぇ!?また切れたよ!!なにこれ!!」
キモトは舌打ちをしながら受話器を置いた。するとすぐさま内線が鳴った。
「またかかってきたよ!!」
キモトは一度受話器を叩きつけてから、内線を取った。
「もしもし!!!ちょっとさっきからどうなってるんですか!!!」
キモトは受話器に向かって声を荒げたが、すでに内線は切れていた。
「もしもーし!!!!・・・どういうつもりだこれは!!!イタズラか!?なにこれ!?もうなんか怖い!!!」
キモトは怯えた表情になった。するとまたしても内線が鳴った。
「うわあ!・・・ハシモトか!?またハシモトなのか!?何が狙いだ?」
キモトは恐る恐る受話器を取った。
「・・・キモトです。」
「ハシモトです。」
「いやああ!!!!」
キモトは驚いた衝撃で受話器を電話機に叩きつけた。
「もうなんなんですかさっきから!!!何が目的なんですか!!!」
キモトは受話器に向かって叫んだが、内線は切れていた。
「いやああああ!!!!!」
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