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#258 演出とかじゃなかった男たち

「いや、先輩ね?それはマジで間違ってると思いますよ!」

マツダはセキネに向かってそう言った後、ジョッキに入っているビールをグイッと飲んだ。

「先輩は会社を守るためにやったって言ってますけど、結局は自分が可愛いだけでしょ?保身ですよ、保身!」

その言葉に、セキネも強い口調で言い返す。

「お前はわかったような口聞いてんじゃねえぞ?何もわかってないからそんなことが言えるんだよ!」

「わかってますよ!俺だってこの会社を良くしていきたいと思ってるから言ってるのに!セキネさんみたいな人が足引っ張ってるんですよ!」

「なんだその口の聞き方は!お前後輩だろ!」

「先輩後輩とか今関係ないでしょ!」

一触即発ムードの二人の間に、ミズノが割って入った。

「まあまあ!二人共落ち着けって!周りのお客さんに見られてるから!まったく飲み過ぎだよ!」

ミズノは店員を呼ぶと、二人の分の水を注文した。

「ホントよくないよ、こういうの!」

「でもこいつが後輩のくせに生意気なこと言ってくるから!」

「だから今それ関係ねえって言ってますよね?」

「おい、誰に口聞いてんだ!」

「もうやめろって二人共!」

ミズノが再び2人を静止すると、マツダが立ち上がった。

「もういいっすよ、俺帰ります!」

「おい、ちょっと待てって!」

「失礼します!」

マツダはバッグを持って、店の出口へと向かっていった。

「おい、マツダ!」

ミズノが追いかけようとすると、セキネがそれを止めた。

「いいよあんなヤツ。ほっとけよ。」

「いや、ほっとけって言われてもさ!なんで喧嘩なんかするんだよ!楽しく飲んでたのに!」

「あいつが生意気なんだよ!後輩のくせに!」

「まあ確かにそうかも知れないけど、お前の言い方もよくなかったぞ?」

するとその時、店の明かりが突然暗くなった。そして店内にハッピーバースデーの曲が流れる。

「ん?おい、なんだ?」

ミズノが状況を掴めずにいると、先ほど帰ったはずのマツダがバースデーケーキを持って、テーブルに帰ってきた。

「ハッピーバースデー、ディア、ミズノさん!ハッピーバースデートゥーユー!」

「おめでとうございます!」

「え?あ?え?マジ?」

突然の出来事にミズノは驚きを隠せない。

「うわ、なんだ?そういうこと?やられたわ!」

「ミズノさん、お誕生日おめでとうございます!」

マツダは再びイスに座った。

「なんだよ、びっくりしたよー!う、うれしいなー!」

ミズノが笑顔を見せると、セキネが強い口調でマツダに言った。

「早くプレゼント渡せや!!!」

「ん?どうした?」

「セキネさんなんなんすかマジで!今渡そうとしてたでしょ!!」

「遅えんだよ!そんなんだから仕事できねえんだろ!」

「仕事できねえのはあんたでしょ?」

「だからその口の聞き方は何だって聞いてんだよ!」

「あ、喧嘩はマジだったの!?そういう演出とかじゃなくてマジだったの!?」

「ちょ、セキネさん!一回表出ましょ?さっさとケリつけましょうよ?」

「おめーバカかよ!ミズノの誕生日祝ってんだぞ!?いいからプレゼント出せや!!」

セキネにそう言われたマツダは、ラッピングされた袋をテーブルに叩きつけた。

「テメー、ミズノのプレゼントをなんちゅう扱いしてくれてんだ!!」

「なんなんすか、うるせえなあ!!」

「二人共落ち着けって!仲良くして!!」

ミズノは2人を落ち着かせた。

「・・・プレゼント、中見てもいい?」

「おん。」

セキネはぶっきらぼうにうなずいた。ミズノがラッピングの紙を外し袋を開けると、中からネクタイが出てきた。

「うわー!ネクタイじゃん!うわ!うれしい!やったー!」

ミズノは過剰に驚いたが、2人は何のリアクションもせず黙ってうつむいたままだ。

「嬉しくない!!!!」

「あ?」

「なんだよこれ!誕生日祝うならもっとちゃんとやってくれよ!なんで俺が気使わないといけないの?ちっとも嬉しくないよ!」

「は?嬉しくないってなんだよ!こっちは祝ってやってんのによ!」

セキネの言葉に、マツダも続いた。

「そうですよ!こっちはせっかく時間割いて来てるのに!」

「でもお前らが喧嘩してるのがいけないんだろ?」

「うるせえな!そもそもお前が今日誕生日なのがいけないんだろ?」

「は?」

「そうですよ!早くケーキ食ってくださいよ!」

「そうだよ早く食えよ!」

「せっかく高い金払ってるのに!」

「マツダが選んでくれたんだぞ?」

「そうですよ!」

「お前もしかして誕生日祝われるのが当たり前だと思ってんじゃねえの?」

「セキネさんの言う通り!当たり前だと思ってんだったら、後輩として言わせてもらいます!それは間違ってますよ!」

「よく言ったぞマツダ!」

セキネがマツダの背中を叩くと、ミズノは怒鳴った。

「急に団結するなよ!俺を仲直りの道具みたいに扱いやがって!」

「いいから早くケーキ食えよ!」

「そうですよ!ったく無駄に誕生日迎えやがって!」

すると突然、ミズノは机を叩いた。

「そもそも俺今日誕生日じゃないから!!!!」

「え?あれ、ミズノの誕生日6月30日じゃなかったっけ?」

「いや、俺11月17日だよ!」

「え、全然違うじゃないですか!」

「そうだよ!でも店まで暗くされた上にケーキ出てきちゃったから、今日誕生日じゃないなんて言えなくてさ!それなのにお前らは喧嘩してるし!俺は何個気を使えばいいんだよ!」

「マジかよ。最悪じゃないですか。これはでもマジでちゃんと調べなかったセキネさんが悪いですよ!」

「なんだテメー、誰に文句言ってんだ?」

「もう辞めてくれー!」

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