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#129 環境を改善するだけの除霊師

「どうぞ。こちらになります。」

依頼主の女は除霊師のおじさんを家の中に招き入れた。

「先月旦那がお墓参りに行ってからというもの、我が家では心霊現象が絶えないんです。誰もいないはずの部屋から声が聞こえてきたり、寝ている時は毎晩金縛りにあいます。どうか我が家から霊を追い払ってください。」

依頼主の女が憔悴しきった表情で懇願すると、除霊師のおじさんは玄関から部屋中を眺めながら口を開いた。

「にしてもきったねぇ部屋だな!」

除霊師の言葉には怒りの感情が含まれていた。

「なんだこの玄関!靴何足置いてあんだよ!あんたら何人家族だ?」

玄関には10足以上の靴が乱暴に脱ぎ捨ててあった。

「旦那と二人で暮らしております。」

「じゃあこんないらねえだろ!しまえ!」

「ですが、我が家には靴箱がございませんので。」

「じゃあ買え!まず靴箱買え!こんなんだからダメなんだよ!」

除霊師は女を怒鳴りつけた。

「除霊師さん。そんなことより除霊を。」

「ああ。その前にトイレ借りますよ。どこですか?」

「廊下の一番奥の左の扉です。」

「はい。ったくきったねぇ床だな。掃除機かけてんのかちゃんと!」

除霊師は文句をたれながらトイレに入っていった。

「くっせぇトイレだな!便器も汚れてっしよお!」

用を足している際も、トイレの中から除霊師の文句が聞こえてきた。

ほどなくしてトイレから出てくると、除霊師は何かに気づいたような口ぶりで女に言った。

「トイレの流れる水圧が弱い!」

依頼主の女は除霊師をリビングに案内した。

「こちらのリビングでは突然物が倒れたり、蛍光灯の電気が突然消えたりと行ったような霊現象が起きます。」

女が説明している間、除霊師は部屋中を見渡していた。

「除霊師さん。何か見えますか?」

女が心配そうに尋ねると、除霊師は口を開いた。

「きたねぇ。」

「はい?」

「部屋がきたねぇ。」

「あ、そういうことじゃなくて。何か霊的なものを。」

「掃除してんのかちゃんとこの部屋!なんか埃の匂いがする!掃除してるか!?」

「あの、除霊の方を・・」

「掃除してんのかって!!」

「・・いえ。」

「そんなんだからいけねえんだよ!」

「すみません。部屋の掃除は以後気をつけますので。除霊の方を。」

「はいはい。この家は時間がかかりそうだ。」

除霊師はそう言うと、手に持っていたバッグのようなものの中から何やら取り出した。

中からは掃除機と雑巾。それから大きなゴミ袋が出てきた。

「あのー、すみません。これは一体?」

依頼主の女が不安そうに尋ねた。

「除霊してほしいんだろ?」

「はい、そうですけど。」

「じゃあ今からこの部屋キレイにしていくから!」

「え!?除霊師さん、私はこの部屋の掃除をお願いしたのではなく除霊をお願いしているのですが?」

「俺の除霊はこうだ!」

「は?」

「霊っていうのはきたねえ環境を好むもんなんだ。だからこの家ピカピカにしてやるんだい!」

除霊師は気合を入れるかのごとく腕まくりした。

「いや、普通除霊ってお経読み上げたり、白い大っきい紙みたいなやつでわさわさやるんじゃないんですか?」

「ドラマ見過ぎだよ!除霊って本来こうだから!」

「えぇ!?」

「除霊ってね、掃除なの。」

「そんなことあります!?」

「ほら!早くこの雑巾濡らしてきて!」

「環境を改善するだけ!?」

「いいから早く!」

その後除霊師は家中をピカピカに掃除して帰っていった。

それからというもの、この家での霊現象はパタリと止んだ。

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