「反政府先導」は誰のことばか。

共同がおもしろい記事を配信している。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8b16798e0adde7928ea231da18a21fc50ac023e7?fbclid=IwAR1JK1ecmQXwCvo8C3_mbI9Pi0JLckbR6c7wPwuaAzv-L6WZOlXBIvKsw2U

官邸、「反政府先導」懸念し拒否 学術会議、過去の言動を問題視か

このことについて、作家の中沢けいがフェイスブックで鋭い指摘をしている。
<blockquote>
タイトル問題あり。政府批判を「反政府」とは言わない。ましてや「先導」なんて的外れ。うちはいつ「独裁国家」になったんだ?複数の関係者というあいまいなかたちで「過去の言動」が問題視されたとする記事に「反政府先導懸念」とタイトルをふったらそれだけで、社会的な委縮を生み出す可能性がある。政策批判、制度批判は現行の政治制度に組み込まれた正常な機能なのだから「批判を恐れる内閣」くらいのタイトルでいい。コンサバティブな学者の任命を拒否した政府に「反政府先導」というタイトルは、事実を誇張しています。どうしたらこんな大時代的なタイトルができちゃうのだろう?学者が難しいことを言って「反政府先導」なんかできたら、学術会議会員任命拒否には600以上の学会が非難声明を出しているんだから、もうとっくに政府は転覆しているよ。なんてばかばかしいタイトルをつけたんだ。
</blockquote>
中沢さんの指摘は、どんなことばをつかってどうニュースをつたえるかという問題点に踏み込んだとても大切なものだ。
それを評価した上で、私は、ひとつ、つけくわえたい。
記事は、こう書いてある。
<blockquote>
 首相官邸が日本学術会議の会員任命拒否問題で、会員候補6人が安全保障政策などを巡る政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し、任命を見送る判断をしていたことが7日、分かった。安全保障関連法や特定秘密保護法に対する過去の言動を問題視した可能性がある。複数の政府関係者が明らかにした。
</blockquote>
よく読むと分かるように、記事中に、「複数の政府関係者が明らかにした。」という表現がある。
これを手がかりにすれば「反政府先導」ということばは記者が勝手につくりだしたものではなく、「政府関係者」が言い出したものである。
政府関係者が言ったので、それをそのまま「記事」にした。
記者が政府関係者の発言を「咀嚼」して言い直したのではない。
中沢さんの「読み方」は、少し(かなり)政府に好意的。
あるいは、記事の書き方の基本に配慮がされていない。
記者は「取材で聞いたことば」以外は書かない。たとえ鍵括弧つき(引用)というスタイルをとらないにしても。
(解説記事なら別だが、解説でない場合は、そんなゃとを言っていないと抗議を受けると困るから、「捏造」はしない。)

政府関係者が「反政府」ということばをつかって、国民の分断を図っている、と読むべきだと私は思う。その意図を、共同の記者に、こっそり語ったと読むべきだと思う。
つまり、これは一種の「リーク」なのだ。こういうことを記事にしてもらいたいと政府関係者が売り込んだものなのだ。
「政府批判」では、客観的(?)すぎて、いわゆる「右翼」を刺戟できないし、一般の国民にもアピール力が弱い。
学術会議は「政府批判」をしているのではなく、「反政府運動」をやっているのがという印象操作をしたいのである。
「問題視」ということばもみられるが、これは「反政府運動」として「問題視」したいということである。
「政府批判」という弱いことばでは「問題視」はできない。少なくとも、一般国民に「問題だ」と訴える力が弱い。

ことばはいつでも「表面的意味」だけではなく、だれがそれを言ったか(スクープさせたか)ということ結びつけて読む必要がある。
ことばが生まれてくるには、そのことばを生み出している何かがある。


これに類似したことが平成の天皇の退位スクープのときも起きた。NHKは「生前退位」ということばをつかった。このことばは皇后が皇后の誕生日に「生前退位」ということばは聞いたことがない、胸を痛めたと訴えるまでマスコミにあふれた。皇后の発言後、「生前退位」ではなく「退位」というようになった。
これは何を意味するか。
「生前退位」ということばが皇后の周辺(宮内庁関係者)から出たことばではなく、別のところ(たとえば安倍周辺)から出たということを意味する。皇室、宮内庁関係者なら「譲位」ということばをつかうはずだからである。


マスコミにあふれていることばはマスコミの創作ではない。記者が考え出したことばではない。そういうことをすれば「捏造」になる。政府関係者が言ったからこそ、それをそのまま「記事」にしている。
ここから記者の無能を読み取るか、それとも「隠し技」を読み取るかは、読者次第。
あの読売新聞には、「隠し技」的な表現があふれている。


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