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後発酵茶・菩提酸茶の歩み(2)


後発酵茶づくりに再挑戦するきっかけとなった上勝晩茶

香りの良さに驚いたM.Tさんの上勝晩茶

M.Tさんの上勝晩茶には使い込まれた木桶の香りや、酸味を伴った甘い香りがある。長い年月が醸す要素と、伝統製法が噛み合っていると感じた。夏の発酵晩茶づくりに失敗し気落ちした頃、世界お茶まつりでこのお茶に出会って勇気づけられた。

晩茶研究会 菩提酸茶製造メンバー
池田 佳正(池田園)茶生産者・袋井市豊沢
安間 孝介(安間製茶)茶生産者・袋井市豊沢
高橋明宏(高橋製茶)茶生産者・袋井市豊沢
多々良 高行 (長峰製茶株式会社)茶商・焼津市

夏の発酵晩茶 製造工程表

阿波晩茶の製造工程を元に作成した工程表である。主要メンバーに製造経験者は一人もおらず、確証がないままの製造であった。

製造データ

摘採
摘み手13人 生葉24kg 時間1時間30分
煮熱
大鍋 60L 生葉1回3kg投入 茹で時間4分30秒
揉捻
10分
発酵期間
2019年8月3日〜9月5日(33日間)
天日干し
9月5日〜6日(1日半)
乾燥茶葉
木桶3.46kg プラ桶3.2kg 合計6.66kg(歩留り 27.75%)

製造における反省点

殺青時の煮汁のロスが多かった

茹でた茶葉をすくい網で竹ザルに移した。この際、湯切りが不十分で地面に多くの煮汁がこぼれた。何度も水を継ぎ足す事となり、煮汁が薄まってしまった。

揉捻で泡が発生

揉捻中に泡が発生したのは予想外だった。8月中旬で茶の木に花は咲いていなかったが、蕾が大量にあり、これらに含まれるサポニンの働きで泡が発生したようだ。

泡の実害はあまりなさそうだが、空気を含んでいるため嫌気発酵にはマイナスだった可能性はある。

揉捻は10分

生クリームのような泡立ち

完成品の評価

葉は黒く、ツヤのある外観

参加者に配布した完成品 袋井発酵晩茶

(1)酸味が少ない
乳酸発酵が弱い。
(2)香味が薄い
茶の味そのものが薄い。
(3)香りは悪くない
腐敗臭はなく、質は良い。木樽には木の香りが感じられた。

考察

煮汁のロス ・・・(1)及び(2)
煮汁のロスは栄養成分のロスである。ただ、煮るという製法自体が、香味の濃さという点ではマイナスであると感じた。

乳酸発酵が弱い・・・(1)
・乳酸菌が少ない可能性
茶葉中の乳酸菌がそもそも少なかった可能性がある。徳島は、茶園周辺の自然環境が豊かで、自然栽培に近い。また上勝町の茶樹は大半が在来種である。一方、袋井は大規模な茶産地であり、大半がやぶきた品種茶で多様性が乏しい。微生物発酵に必要な環境が今回の圃場には整っていなかった可能性がある。乳酸菌による天然微生物発酵茶が四国に集中している点も気になるところである。

・乳酸発酵が弱まった可能性
煮汁が薄くなるとカテキンによる殺菌力が弱まる。阿波晩茶は煮汁中のカテキンにより雑菌が減少し、乳酸菌も耐性があるもの以外は淘汰される。乳酸菌の菌叢にも影響を与えた可能性もある。

(3)は漬け込みに問題がなかった証だと解釈した。

目指す方向性と今後の方針

阿波晩茶は茶葉を煮ることで殺青と煮汁を利用した嫌気環境の構築の両方を得ている。しかし、袋井の茶葉では乳酸菌が少なく、成分ロスに耐えられない可能性があったり、既存の製造設備(蒸製)が使えない等難点が多い。

一方、蒸製であれば成分ロスが少なく、既存設備も利用できる。蒸製の乳酸発酵茶には碁石茶や石鎚黒茶がある。いずれもカビ付けを行う二段階発酵茶だが酸味が強い。

袋井の茶園環境を考慮すると、成分ロスの少ない「蒸製」を選択すべきと考えた。カビ付けを行わない蒸製乳酸発酵茶はこれまでにない製法だ。阿波晩茶と碁石茶の折衷的な製法で、癖のない中間的な酸味の茶になればおもしろいと感じた。

毎年10月末に行っている「とよさわ日干晩茶」づくりが目前に迫っていた。袋井豊沢地区の秋冬番茶を送帯蒸し機で蒸して、揉まずに天日干しするシンプルな晩茶だ。この蒸葉の一部を天日干しせずに、新製法で発酵させてみようということになった。

これでだめなら諦めもつくという気持ちで試験製造に取り掛かった。

後発酵茶・菩提酸茶の歩み(3)へ続く




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