神戸に管制部、そして空域再編
那覇の管制部を廃止して、その空域を神戸で受け持つことになりました。そして日本の空の再編成が始まっています。
(2019年2月17日の「神戸に管制部」と、2020年11月25日の「西日本、空域上下分離はじまる」、これら2本の「やぶログ」記事をひとつにまとめました。)
わが国の航空行政を担う航空局は「国内管制空域の抜本的再編」を進めています。空域の上下分離により管制処理効率を上げ、管制容量の拡大を目指すのです。その第一段階として、2018年10月に那覇ACCを廃止し、神戸ACCを発足させました。
ACC : Area Control Center、航空交通管制部。単に「管制部」ともいう。
管制空域
世界中を飛行する航空機の交通整理(航空管制)は、地域ごとに各国が分担して受け持っています。そのうち、日本が担当する空域を「福岡FIR」といいます。FIRとは「飛行情報区」のこと。そう言われてもピンときませんが、航空機の安全で円滑な運航に責任を持つ空域と考えていいでしょう。何で「福岡」なの?という疑問も湧きますが、その説明は別の機会に。
FIR : Flight Information Region、飛行情報区
その「福岡FIR」、空域を次の図のように分け、4つのACCと福岡にあるATMCの計5か所で航空管制を行っています。(注:ATMCと福岡ACCは同じ場所ですが、組織としては分かれています。)
ATMC : Air Traffic Management Center、航空交通管理センター
▲ 福岡FIR(神戸ACCの空域は、2018年10月まで那覇ACCが担当していた)
この空域の下には多くの飛行場があり、飛行場の周辺には離着陸のための空域などが設定されています。
管制空域の再編
航空局は、空域再編でどんな最終形態を描いているのでしょう? 資料などから読み取れるのは「上下分離」方式を取り入れることです。
一般に「上下分離」というと、上部(運営)と下部(インフラ)を分けるイメージがありますが、空域に関しては言葉どおりの「高い高度」と「低い高度」です。空域を高度で上下に分けて管制を行う、ということです。そして、航空路管制を行う拠点を3か所(東京、神戸および福岡)に減らします。高高度空域を福岡が受け持ち、低高度空域は東西に分けて東京と神戸が担当する、という考え方が示されています。
・高高度空域および洋上空域 : 福岡
・西日本低高度空域 : 神戸
・東日本低高度空域 : 東京
上下分割の高度は、FL335(およそ 33,500ft=10,210m)とされました。FL335以上が高高度、FL335未満が低高度です。
FL : Flight Level
▲ 最終形態の空域イメージ
このようにシンプルにすることは、なかなか良さそうに思います。今後の航空交通量の増大が避けられない中、それにあわせて管制官を増やすことは困難ですから、航空管制業務を効率化する方策として上下分離が出てきたのでしょう。
一方、空域の「抜本的」な再編とうたってはいますが、この方法で増やせる管制容量は、現行の180万機から200万機(2025年)程度までの10%ほどらしく、抜本的というほど大きな拡大には感じられません。また近い将来、さらなる「抜本的」な発想が求められることになるかもしれません。
移行期間
目指す最終形態に至るまでの間に移行期間が設けられます。先に西日本が上下分離され、現行の福岡ACCと神戸ACCのエリアを併せた低高度空域を神戸ACCが受け持ち、同じエリアの高高度空域を福岡ACCで管制します。東日本と北日本は当面の間、現行どおり東京ACCと札幌ACCによる航空路管制が継続されます。
▲ 2022年4月〜2025年3月の空域イメージ
トラブル発生!
神戸ACCは、2018年10月の発足当初から繰り返しトラブルに見舞われました。新たな航空管制システムである「統合管制情報処理システム」の一部に不具合が発生したため、10日には那覇空港などの出発便が制限されるなど、運航に大きな影響を及ぼすことになってしまいました。
これまでも、管制情報処理システムを更新するたびに、運航への影響の多少はありますが何らかのシステム障害を起こしています。ソフトウェアの不具合を事前に完全に取り除いておくことは困難ですが、今回のトラブルでは「従来システムに切り戻す」という、技術者としては非常に残念な状況に陥ったと言えるでしょう。およそ2か月に渡って対処した上で、ようやく12月5日から神戸ACCでの管制業務を再開することができました。
飛行機の利用者から見れば、管制空域をどのように再編しようが安全でスムーズに運航してくれれば構わないのですが、国が維持管理する管制システムの不具合のせいで私たちの旅程に悪い影響が及ぶのはゴメンです。管制空域の抜本的再編だけでなく、航空管制システムの開発やシステム設計のあり方にこそ、抜本的な発想の転換が必要なのかもしれません。
西日本から上下分離はじまる
そして2020年11月に空域の再編が始まり、まずは福岡ACCと神戸ACCの西日本空域から着手しました。現在の東京ACCと福岡ACCの境界から西の空域は、高高度/低高度に分割されます。
▲ 西日本空域上下分離への移行イメージ
これまでは、西日本空域を平面上で線引きして福岡ACCと神戸ACCに分けていました(いちばん上)。2020年11月5日、福岡ACCの空域が上下に分割されました(2番目)。分割高度は、FL335(およそ33,500ft)です。
2021年1月末に福岡ACC低高度の南側のセクターが神戸ACCに移管され、続いて同2月末には残る低高度の北側のセクターも神戸ACCに移りました。(真ん中)
次に、2021年12月には神戸ACCの空域も上下に分割され(4番目)、2022年2~3月ごろに神戸ACCの高高度エリアを福岡ACCに移して、西日本空域の上下分離が完了する計画です。(いちばん下)
では、2020年11月5日付で分割された福岡ACCの空域を、もう少し詳しく見てみましょう。
▲ 福岡ACCのセクター(eAIPの図に加筆)
このエリアに土地勘がない私にとっては、セクターの境界が非常に分かりにくいです。335+/335- が目立ちますね。多くのセクターが上下に分割され、FL335以上の高度を福岡ACCが担当します。
神戸ACCの空域も、同じ図で見てみます。
▲ 神戸ACCのセクター(eAIPの図に加筆)
いまだに那覇の「N」名が残っているんですね。FL335より低い高度を神戸ACCが受け持ちますが、さらにN50、N52、N54の一部が上下に重なっていて複雑です。
▲ 福岡ACCの上下分離イメージ
セクターの再編により、高高度はF09, F10, F12~F15の6セクターに、低高度はF50~F54の5セクターになりました。
▲ 西日本空域の上下分離と飛行高度
計画どおり進むと、2022年4月にはFL335を境にした西日本空域の上下分離が完了し、こんなイメージになるのでしょう。
その後も引き続いて東日本・北日本空域の上下分離が進められ、国内空域再編の最終形態へと向かって行くはずです。
広域ターミナル化
航空路空域だけでなく、飛行場周辺における出発/進入の管制も効率化が必要です。現行のターミナル空域を拡大・統合して「広域ターミナル化」を計り、北海道および沖縄周辺空域の広域ターミナル管制を「札幌」および「那覇」で行う計画のようです。ACCとしては廃止される(た)札幌と那覇ですが、広域化する「ターミナル・レーダー管制」用にACC施設を有効活用する目論見のようです。札幌ACCでは、すでに「道東広域」や「東北広域」で広域進入管制を行っていますが、この空域をさらに拡大してターミナル・レーダー管制へと移行させ、運航効率を一層向上させるねらいでしょう。札幌や那覇以外でも広域ターミナル化が進められるようです。
具体的な案が出されていない段階での予測は難しいので、航空局の図を引用させていただくにとどめます。
▲ 航空局資料「国内空域の抜本的再編(ターミナル空域拡大・統合)」の一部を引用
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国内空域の再編プロジェクトが動き始めました。ステップ・バイ・ステップの慎重な移行に引き続き注目していきたいと思っています。
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参考にした資料:
・eAIP JAPAN
・航空管制の現状と今後について(航空局管制課、2020年10月)ATMシンポジウム2020
・今後の我が国航空管制の課題と対応(航空局、2016年10月27日)航空管制セミナー
・航空交通量の増大に対応した管制空域のあり方(航空局、2013年10月30日)
・国土交通省航空局報道発表(2018年10月10日、2018年10月15日、2018年12月5日)
・神戸新聞NEXT(2017/2/8 06:33)
・琉球新報(2018年10月11日 09:41)
※ 写真はすべて、2021年1月、やぶ悟空撮影
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