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札幌進入管制区と丘珠のレーダー

(2019年12月時点の「やぶログ」記事です。)

丘珠空港のレーダーです。このレーダーを使った「ターミナルレーダー管制」が行われるようになって、はや11年が過ぎました。今回は丘珠空港・札幌飛行場に着目します。

丘珠のレーダー

丘珠空港といわれる「札幌飛行場」は、防衛大臣が設置・管理する軍民共用の飛行場です。滑走路は1432で、長さ 1500m(幅45m)と短いのですが、北海道エアシステムのターボプロップ機 SAAB340Bだけでなく、フジドリームエアラインズのエンブラエル・ジェット ERJ-170/175も冬期間を除いて就航しています。管制業務は、陸上自衛隊 北部方面管制気象隊が行っています。

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▲ 札幌飛行場のレーダーと管制塔、背後に「つどーむ」が近い

これは、ターミナルレーダー管制の導入に当たって防衛省が設置した空港監視レーダー(ASR)です(2008年3月完成)。もちろん SSRも併設されていますので、ASR/SSRと書くほうが正確です。ASR/SSRでレドームがあるのはめずらしい気がしますが、特に冬季の風雪や寒気からアンテナやその駆動系を保護するためでしょう。でも、航空局の函館ASR/SSRにはレドームがなく、アンテナむき出しなのですが…。

・ASR : Airport Surveillance Radar、空港監視レーダー
・SSR : Secondary Surveillance Radar、二次監視レーダー

このレーダーは背が高めのようです。コミュニティドーム「つどーむ」の鉄骨構造による電波の悪影響を避けるためでしょうか。これだけ大きい金属構造物がレーダーの近くにあると、思わぬ方向や距離に航空機のエコーが映ったりする ゴーストが生じることがあるのです。

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▲ ディスコーン・アンテナ

レーダー鉄塔の中段に、多数のディスコーンアンテナが並んでいました。disc+coneで discone、その名のとおり円板と円錐を組み合わせたような形状で、周波数帯域がとても広いアンテナです。大きいのがVHF用、小さいのはUHF用でしょう。ターミナルレーダー管制の通信用でしょうか。管制塔の屋上のアンテナもディスコーンでした。

進入管制区

札幌飛行場にターミナルレーダー管制が導入されたのは、平成20(2008)年11月20日のことです。それ以前は「飛行場管制業務」と「着陸誘導管制業務」が行われていましたが、加えて「進入管制業務」と「ターミナルレーダー管制業務」が始まったのです。

・飛行場管制業務:

飛行場を中心に半径5nm(9km)の円筒状の空域を「管制圏」といい、管制圏内を飛行する(地上走行も)すべての航空機の管制を行うのが飛行場管制で、札幌飛行場では「札幌タワー」というコールサインです。札幌飛行場の管制圏の上限は高度4,000フィートに設定されています。

・着陸誘導管制業務:

その名のとおり、着陸機を滑走路付近まで誘導する GCA です。IFR機をレーダーで見ながら無線の音声で誘導します。ターミナルレーダー管制のASR/SSRとは別のレーダー(PAR)を使います。

・GCA : Ground Controlled Approach、着陸誘導管制
・IFR : Instrument Flight Rules、計器飛行方式
・PAR : Precision Approach Radar、精測進入レーダー

・進入管制業務:

レーダーを使わずにIFR機の進入管制を行います。進入管制といっても、進入機だけでなく出発機も対象です。「進入管制区」内を飛行するIFR機に対し、進入・出発の順序を決め、飛行経路や上昇・降下などの指示を出します。

・ターミナルレーダー管制業務:

レーダーを使って進入管制を行うと「ターミナルレーダー管制」になります。レーダー画面上に航空機が表示されて管制間隔を縮小することができ、トラフィックが多くなっても安全で効率の良い運航ができます。


この ターミナルレーダー管制業務を札幌飛行場で行うにあたり、その範囲として 札幌進入管制区が設定されました。

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▲ 札幌進入管制区

羊蹄山が南の境界です。東は滝川滑空場が進入管制区内にすっぽり入っています。上限高度は 大部分が11,000フィートですが、旭川空港に近付くにつれて 8,000フィート、7,000フィートと下がってきます。この空域設定は 2008年当初から変わっていないようです。札幌飛行場にあるASR/SSRは、札幌進入管制区を飛行する航空機を監視するためのレーダーなのです。


北海道には、札幌のほかに千歳と函館の進入管制区が設定されています(青森県の三沢進入管制区が函館進入管制区と接していますが、この図では省略しました)。

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▲ 北海道の進入管制区

これら3つの空域は千歳進入管制区を挟んで接していて、一部は重なっています。平面だけでは分かりにくいので、航空路で切った断面図を作成しました。

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▲ 北海道の進入管制区<高度概念図>

これらの進入管制区より高い空域は航空交通管制区として札幌航空交通管制部(札幌ACC)が航空路管制を行います。(進入管制区も航空交通管制区に含まれる)

千歳の管制圏(CTZ)の高度は、新千歳空港(RJCC)が標準的な3,000フィートですが千歳飛行場(RJCJ)は6,000フィートに設定されており、それぞれ別の飛行場なので管制圏の中心が少しずれています。また、千歳進入管制区内には 特別管制区や TCAが 非常に複雑に設定されています。

・ACC : Area Control Center、航空交通管制部
・CTZ : :Control Zone、管制圏
・PCA : Positive Control Area、特別管制区
・TCA : Terminal Control Area、ターミナルコントロールアエリア


千歳と函館の進入管制区の図も、併せて作成しました。

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▲ 千歳進入管制区

ここは高密度空域で、一部は札幌と函館の進入管制区の上に覆いかぶさっています。よく見ると新篠津付近の上空8,000~16,000フィートに、ごく小さな三角空域があるのですが、なんでこんな設定にしたんだろ。実際の飛行には影響ないと思いますが…。

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▲ 函館進入管制区

輪郭は複雑ですが、上限高度は一律13,000フィートで分かりやすいです。

いずれも概念図として描いたもので、正確ではありませんのでご承知置きください。2019年11月7日有効のeAIP情報を基に、地理院地図に書き加えました。


丘珠空港には他にもレーダーがあります。それらも探ってみましょう。

他のレーダー

札幌進入管制区と関係はありませんが、札幌飛行場(丘珠空港)に設置されている ASR/SSR以外のレーダーも気になりました。まずは、これ。

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▲ 精測進入レーダー(PAR)

新型の PAR(ピーエーアールと読む)のようですね。透過型フェーズドアレイ方式のアンテナを使ったPARは初めて見ました。空間給電を行う1次放射器とアレイの位置関係、それと使用滑走路の方向を見てアンテナの向きを疑問に思いましたが、進入方向が変わるとアンテナも反転していたので透過型と気付きました。PARには高精度(高い分解能)が求められますので、 9GHz帯の高い周波数が使われています。

・PAR : Precision Approach Radar、精測進入レーダー

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▲ PARの位置(Googleマップ)

1,500メートルの滑走路中央わきに設置されており、アンテナの向きを反転させるだけで滑走路1432両方に対応できそう。「札幌GCA」に使われるレーダー、PARです。

GCA管制官は、ファイナルの航空機に対して、PARディスプレイに映るターゲットを見ながら機首方位と降下率を細かく指示します。管制官は一方送信を5秒以上空けてはならず、途切れずに指示を出し続けるのです。パイロットは計器を見ながら無線の指示どおりに飛行機を操り、進入コースにのせます。うわ~、どっちも大変そう。

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▲ 気象レーダーと 着陸したSAAB340B機

つどーむ駐車場そばの公園から見た 局地気象レーダーです。低層ウィンドシアー(離着陸に危険を及ぼす大気下層の風の急激な変化)を探知できる「ドップラー気象レーダー」で、2011年12月に運用開始されたそうです。

AIP の RJCO/SAPPORO に低層ウィンドシアーの情報提供空域が載っています。到着機には滑走路進入端から3nmまで、出発機には滑走路終端から2nmまでの、いずれも幅1nmの範囲が図示されています。

この外観から思うに、三菱電機製の「局地観測用気象レーダー」のような気がします。そうだとすると周波数帯は9.7~9.8GHzのXバンドで、最大処理範囲が距離80kmというスペックかもしれません。その性能なら、最遠方で40nmという札幌進入管制区の空域を完全にカバーできることになります。

低層ウィンドシアーを検出するレーダーは新千歳空港にもあります。気象庁の 空港気象ドップラーレーダー(DRAW)です。DRAWの周波数は Cバンド(5GHz帯)なので、機器やアンテナのサイズが大きくなります。細かな性能差までは分かりませんが、丘珠の気象レーダー、小粒でもピリリ…かもしれないですね。

・DRAW : Doppler Radar for Airport Weather、空港気象ドップラーレーダー

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▲ 札幌飛行場のレーダー(AIPの RJCO/Sapporo AD Chart を使用)

今回紹介した3つのレーダーの配置は、このようになっています。

大都市 札幌にある小さな飛行場、丘珠空港をうまく利活用しようと検討が進められています。さまざまな課題はあるようですが、うまいところにランディングできるよう今後も見守っていきたいと思います。

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※ 2019年11月7日有効の eAIP情報を基にしました

※ Googleマップ以外の写真はすべて、2019年8月、やぶ悟空撮影


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