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傾くヘリコプター(その2)

前回(その1)からの続きです。ホバリング中のヘリコプターは、なぜ傾くのか?という問いかけでした。

H135(AIRBUS HELICOPTERS の図に加筆)

その理由を考えてみます。AIRBUS社のwebサイト、H135 technical information からダウンロードできる "H135 Infographic" の図をベースに使わせていただき、書き加えました。道警の H135JA21DK)も、この図のヘリとほとんど同じです。

エアバス製のヘリコプターと聞くと、フランスのイメージが強くてメインローターの回転方向は上から見て右回転(時計まわり)のような気がしてしまいます。でも、H135のメインローターは、ドイツ製ヘリコプターの流れを汲む 反時計まわり左回転です(アメリカ製ヘリコプターも左回転)。

図のヘリコプターは、いま空中にいます。この機体のエンジンが(ギヤボックスを介して)メインローターを左回転させると、その回転によって機体を右回転させようとするトルクが発生します。それで機体が回転しないように、テールローターが横向きに推力を発生させています。回そうとするトルクに対抗するので、アンチトルクと言われます。


▲ メインローターが左回転なら、機体に右回転のトルク

このままではテールが左に振られ、機首はどんどん右に向いていきます。


▲ 機体が回転しないよう設けるテールローター

メインローターが左回転するヘリコプターの場合、テールローターの推力を右方向に発生させます。テールローターの風の吹き出しは左です。

ここで「傾く」説明からちょっと話がそれますがお許しを。テールローターにはいくつかの方式があり、左側に置いたテールローターの推力でテールを右へ押すタイプを"Pusher"(推進式)、右側のテールローターが右に引っ張るタイプを"Tractor"(けん引式)といいます。この日、飛んでいた道警ヘリの別の2機がそれぞれに当てはまります。

アグスタA109(JA03HP)が "Pusher"、アグスタウエストランドAW139(JA05HP)が "Tractor" タイプのテールローターです。いずれもイタリアのヘリコプター。

▲ Pusher/Tractor の例

そして、テール構造の中にローターを組み込んだものを一般に"ducted fan"といい、エアバス・ヘリコプターズでは「フェネストロン」と呼びます。H135もそのフェネストロン・タイプです。

テールローターの推力を変化させれば、機首方位を変えることができます。推力を変えるには、回転数ではなく、テールローター・ブレードのピッチ角を変化させます。これは両足で操作し、右ペダルを踏み込めば機首が右へ、左ペダルを踏めば機首が左に向きます。

話しを元に戻しましょう。問題の「傾き」に関係するのは、この先です。


▲ まだ機体は静止しない

1.ヘリコプターが浮くためにメインローターを左回転させると…

2.機体を右回転させようとするトルクが発生するので…

3.テールローターで右方向への推力(アンチトルク)を発生させる

機体の回転だけをみればこれでバランスが取れ、機首方位を安定させることができます。でも、

4.テールローターの推力によって、機体が右方向に流される

という状況が起きてしまいます。


▲ ホバリング(空中静止)

ドリフトを止めて空中で静止するためには、メインローターを少し左に傾けてやる必要があります。ヘリコプターは、メインローターを傾けた方向に進もうとするので、右に流れようとするドリフトをこれで打ち消すことができる、というわけです。

これが、ヘリコプターがホバリング中に傾いている理由です。


H135(JA21DK)のテール

H135のテールローターはフェネストロンの吸い込み側にありますが、高速回転しているので、この写真では見えていません。見えている10枚の羽根は回転しないステーター・ブレードです。


▲ パークゴルフ場の隣りが道警のヘリパッド

車輪ではなくスキッドのヘリコプターで離陸/着陸する場合は、必ず真上/真下に移動します。そうしないとスキッドが障害物に引っかかったり、コンクリートにこすれて傷がついたりしますから。ゆっくり離陸するときは右のスキッドが先に地表を離れ、わずかに遅れて左のスキッドが浮くのを見ることができます。そして着陸で先に接地するのは左スキッドです。

アメリカ製・左回りのロビンソンR22で操縦訓練を受けていたとき、ホバリングではサイクリック・スティック(右手の操縦桿)を意識的にかなり左に傾けました。そうしないと右の方へと流され、だんだん加速してしまいます。傾いた状態が空中で静止できる正常な姿勢と分かっていても、操縦席も 自分の体も傾いているのでかなり違和感を感じます。なかなか慣れないものでした。

一方、フランス製のヘリコプターはメインローターが右回転することで知られています。その場合、ここまで説明したトルクなどがすべて逆向きになるので、ホバリング時の傾きも逆(後ろから見て右)になります。右回転ヘリを操縦したことはないのですが、左回りから右回りのヘリコプターに乗り換えるパイロットは、メインローターの回転方向を意識して自身の感覚も切り替える必要があるでしょう。

実は、メインローターの回転方向が変わるとホバリングだけでなく旋回時に働く力も反対になるので、ここでは詳しいことは省きますが両手両足の操作が少し変わるのです。体に馴染んだ操縦感覚を切り替えるのは容易じゃないはず。大変そう。


※ 写真はすべて、2022年5月、やぶ悟空撮影

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