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PPP的関心【ウォーカビリティ(歩きやすさ)が地域経済を活性化する】

偶然、週末のネットニュースで見かけた記事に自分も大きな関心を持ちましたし、シェアしたSNSでもそれなりに反応があり関心の高さを感じた話題。
その記事タイトルは『「道路を『歩道化』すると沿道の店は儲かる」を証明 車中心からの転換に示唆』と記され、経済活動を支えるヒトやモノの移動を効率的にすることを意図した「クルマ優先」の街路計画・配置から「ヒトのための街路」を取り戻そうとする議論を後押し、肉付けする研究成果であるとともに、街路に面した建物を「開いてゆく」きっかけになる成果発表だとも思ったからです。

今回はこの記事を読んで思ったことを書いてみたいと思います。

記事の元になった研究。東京大学先端科学技術研究センターのプレスリリースから

ニュース記事の元ネタは「街路の歩行者空間化は小売店・飲食店の売り上げを上げるのか、下げるのか?~ビッグデータを用いた経済効果の検証~」(東京大学先端科学技術研究センター  2021年10月29日 プレスリリース)という研究成果発表です。

今回のPPP的関心のタイトルに「ウォーカビリティ(歩きやすさ)」という言葉を使いましたが、研究では「歩道化。歩行者空間化」ということで、歩きやすさの一歩手前の「歩ける街路にする」ことがもたらす効果として小売店や飲食店の売り上げに変化があるか?ということを検証したモノです。

リリースにある発表のポイント

歩行者中心の街路に立地する小売店や飲食店の売り上げは、非歩行者空間に立地するそれらよりも高いことを定量的に示した。
車中心の道路から歩行者や自転車中心の道路への転換に係る、周辺環境への経済的影響を分析した結果、レストランやカフェといった飲食店の売り上げにポジティブな影響を与えることが明らかになった。
・本研究成果はウィズコロナに対応した都市計画やまちづくりが進むなか、パンデミックへの備えと経済活動を両立させる為の街路の有効活用といった政策立案や、住民との合意形成のための強い根拠となり得ると期待される。

経済効果の定量的検証と
「居心地の良いまちづくり」というアプローチとの連動

このリリースでも” 環境汚染や健康、そして市民生活の質を高めるといった観点から、世界各地の都市で歩行者中心の街路編成が進んでいます。しかしながら、これまで歩行者空間化による周辺環境への影響が定量的に検証されることは殆どありませんでした。 ”と言及されているように、このリリースに関心が高まる理由はこの点にあるではないかと思います。

これまでも「歩けるまち、歩きたくなるまち」については、社会構造(人口や労働人口など)の変化や都市化経済から都市型経済に移る中で都市のなかでの体験やソーシャルキャピタルの向上、多様性の確保などといった要素が「都市の再生」の第一歩という観点から求められていました。

この令和元年の提言で示された「今後のまちづくりの方向性」には

コンパクト・プラス・ネットワーク等の都市再生の取組をさらに進化させ、官民のパブリック空間をウォーカブルな人中心の空間へ転換し、民間投資と共鳴しながら「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を形成することにより、内外の多様な人材・関係人口の出会い・交流を通じたイノベーションの創出や人間中心の豊かな生活を実現する都市を構築していくべき

とあります。
今回のリリースは、これまでの都市再生というハード的なアプローチとして歩きやすい街区にすることへの指摘と「イノベーションの創出や人間中心の豊かな生活を実現」という定性的な効果の指摘に対して、時を経て「定量的な効果の可能性」を示した、ある意味「裏付け」を示したことが注目を集めた理由なのだと思います。

利便施設の集積指標から見た不動産評価との連動で不動産評価をよりリアルにする可能性

今回の研究は歩行街区化した街路に面した小売業や飲食業の売り上げの変化を見ていますが、言い換えれば街路に面した土地(建物)の収益性の変化を見ているとも言えます。

これまでも、都市のアメニティとアメニティへのアクセスの容易さを「指標化」することで、不動産価値との連動も可能にする試みがありました。
例えば日建設計総合研究所『Walkability Index』です。

このIndexは事実ベースで地点ごとの都市アメニティ(*以下、詳細)の集積程度を指標化したもので、利用可能性としては都市開発の効果検証や不動産価値評価の参考にできる指標です。

*都市のアメニティ:生活利便施設(スーパー、コンビニ、ドラッグストア、医療施設、公園など)、商業・レジャー施設(飲食店、カフェ、パン、大型商業施設、娯楽施設、スポーツ施設など)、教育・学び施設(習い事教室、書店、文化施設、子育て施設など) 

「徒歩での生活しやすさ」を都市のビッグデータから数値化した不動産周辺環境の評価指標『Walkability Index』(特許出願中)
『Walkability Index』は、ある地点から徒歩で到達できる範囲に、生活利便施設、商業・レジャー施設、教育・学び施設 * といった生活をする上で近くにあって嬉しい「都市のアメニティ」がどれだけ集積しているかを100点満点で評価する指標

歩行街区化がすでにある店舗の売り上げをどう変化させるかという視点と、店舗などのアメニティの集積が評価にどうつながるかを重ね合わせてみていくことで、地域活性化を目論むまちづくりの計画や都市計画の際により精緻な参考指標になると思います。

ちなみに。
歩行街区での経済効果、そこに連なる不動産価値との直接的な連動指標ではないですが、国土交通省からも面白いツールが出されています。
「居心地が良く歩きたくなる」まちなかの形成は、まちなかで多様な人材が集い、滞在し、交流することを目的として、実際に歩きながらまちなかの状況を簡易に現状把握し、居心地の良いまちなかの形成には何が必要なのかといった改善点を発掘するツールとして「まちなかの歩きやすさ等を客観的に評価する指標(案)」というのが発表されています。

歩くことができる、歩きやすい、noteまで「歩きたくなる」気持ちをいかに創造するかも大事だと思います。

不動産に官も民もない。
歩ける街区化、利活用可能性の開放の検討

以前のPPP的関心でも書きましたが、立地地域の都市的施設の充実度、職場や学校等からの時間距離、利便性、安全性などの要素によって所有・利用意向の”需給バランス”による「相場」変動的な価値付けに加え、不動産自体が生み出す付加価値(今回で言えば、小売や飲食の売り上げ)によって価値は変動します。つまり使い方によって価値は変わる(変えられる)ということです。
今回の研究は、不動産として生み出す価値を高め地域活性化に貢献するような利活用の自由度を高め、工夫する動きを加速させるものだと思いました。

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