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PPP的関心【二戸&盛岡公民連携プロジェクト視察で考えた「一般解」化への鍵】

2022年5月19日~20日にかけて、二つの公民連携プロジェクトを視察しました。
一つは、前号の不動産学会学会誌の「最新トレンド紹介」コーナーに『二戸市の公民連携まち再生事業~金田一温泉地区~』と題してご寄稿いただいた(不動産学会の学会誌編集委員である私から、カダルテラス立ち上げの重要な関係者の一人でもある五日市様にご執筆をお願いしました)施設、カダルテラス金田一を訪れました。

もう一つは、盛岡市の交通の要衝でもある中心市街地に立地する「盛岡バスセンター」の建て替え工事の工事現場に入れていただき、このプロジェクトの事業主体である盛岡地域交流センターのご担当と設計をご担当された西村さんに施設概要、目的、目的のための工夫などをご案内をいただきました。
*写真は1つ目に訪問したカダルテラス金田一の現在(筆者撮影)

カダルテラス金田一とは

このプロジェクトはものすごく大雑把にいうと、過去に公設公営で整備された古い温浴施設の再整備を民設民営で進めるという、いわばサービス提供者を官から民へ転換させたものです。
二戸市は公民連携事業を進める上で「二戸市公民連携基本計画」を定め、それに基づいて「公民連携推進地区(3カ所)」が決まりました。今回の案件はその一つです。
元々あった温浴施設は都市公園内に整備されていたことで、計画途中で実現した都市公園法の改正(都市公園における設置管理許可の延長など)を活かすことができ、都市公園に立地する温浴施設の一体整備(Park PFI)が進められたものです。

盛岡バスセンターとは

このプロジェクトは、過去に公設公営で中心市街地に元々あったバスセンターが閉鎖・解体された後の跡地を盛岡市が買取り、新たにバスセンター整備を進める際に、官民合築(整備事業主体は民)方式が選択され進められたものです。

注)お詫びと訂正
旧バスセンターは公設公営と書いておりましたが、元々は民設民営の施設であり、その老朽化対策が進まなかったことで閉鎖・解体され、跡地を市が取得して事業を進めた、という経緯でした。(2022.05.27追記)

筆者追記

盛岡市が所有する土地(公有地)で、最終的に市が整備・所有するバスターミナルなどの公共施設と民間会社(第三セクターである株式会社盛岡地域交流センターと同社が設立するSPC)が整備・所有する民間施設を一体的に建設する「官民合築(*参照:合築施設事例」型の施設整備事業(事業プロセスとしては建物を民間が整備し、公共施設スペースと民間施設スペースを区分所有権にして民間から行政に区分所有権を売却し完了させる)です。

単なるバスの発着施設ではなく、盛岡市の中心部と郊外、あるいは盛岡市と盛岡市以外の地域との交流や賑わいを呼ぶ施設として商業・飲食や宿泊施設の整備が進めされています。

どちらも時代や環境の変化を受け入れ、自ら柔軟に変化させた取り組み方

今回視察した二つの公民連携事業は、どちらも社会構造や経済環境の変化を受け入れ、従来からの官民間の役割分担・サービス提供領域を柔軟に変えている点で注目される事業です。
注)もちろん、それを実現する過程において関わった当事者が圧倒的な熱量と自分の仕事だ!という思い入れで初志貫徹の行動を起こした甲斐あってのもので、柔軟といっても決して軽やかな進展ではなかったはずであることは想像に難くありませんが。

今回の視察の中で、カダルテラスの設計に関わった建築家・岡部さんの話の中に私が「キーワード」と思った言葉があります。
このプロジェクトは民間が行政のエージェントとして「官民間の役割分担を明確にした契約と契約に基づくガバナンスのもとで、民間が資金調達、建設、運営、管理までを一貫して責任を持って担いつつ、官民が協働して事業を成し遂げる」という県内の先行事例(オガール紫波)で示された事業手法を、どのように展開するかという、いわば特殊解を一般解化するというアプローチなのだ、という言葉です。

この言葉は、私が東洋大学PPPスクール(公民連携専攻)で担当する「まちづくりビジネス論」で講義目的の一つにおいている、全国各地で起こされた公民連携プロジェクトの事業プロセスを特殊解と扱わず、その中から共通項を見出し一般解として展開できる状態にする、とまさに一致するものです。

視察を通じて再認識したこと。
特殊解を一般解へ、のアプローチで必要&重要なこと

先行事例のやり方や考え方を用いて目の前の課題を解決することは、0→1は難しいけれども1があることで他の場所や機会でも1を再現できるようにできるという点で、重要な手法だと思います。
なので先行事例集などが与えられることは必要なことだと思います。ですが事例を扱う中で事業スキーム図とか形式的にコピーできる部分にだけ視線が注がれることには違和感があります。

例えば、今回の視察事例でいえば、行政としての「基本構想=ビジョン」の設計・共有とそれを受けた事業主体の組成(地元の有志達と役所内の志ある職員の協働)、金融機関の目線を重視した事業計画による資金調達、どこにでもある施設にしないためにその「場所」の成り立ちや歴史的な機能・役割を踏まえた建築・ランドスケープ計画、運営、管理主体・・・等実は形式的には先行官民連携プロジェクトの形式的コピー&ペーストと見える進められ方とも言えなくはないです。結局はオガールの仕組みでしょ、同じ取り組みはウチでもできそう、という見方や言い方をする人も出るかもしれません。

しかし、私には「本当にそれだけか?」ということを痛感した視察でした。

壁を越える人材の育成(その取り組み)が本当の一般化かも

繰り返しますが、事業の仕立てや計画の推進・実践手法に関する情報の拡散は着々と進み、一般化(というか仕組みとしてのコピーはできる状態)には近づいているのではないかと思う一方で、この事業は誰がやるのですか?については相変わらず「特殊なまま」なんだな、を痛感したのが今回の視察でした。

ちょっと(というかだいぶ)余談です。
最近、高校の同級生の才媛(元・全国紙新聞の女性初の政治部長として活躍した友人)が書いた「オッサンの壁」を読みました。
なぜこの本の話に触れるのか。
それは、本で扱われている政治や大手企業の男性諸君の振る舞いの根底にある「自分達の従来の世界・価値観を保守的に捉える」ような「壁」が地域の官民間の役割や関係にもあって、その「壁」を乗り越える("今は"「壊す」や「無くす」などラディカルなことを言っても時間がかかるとも思うので「乗り越える」としました)まで動き続ける人材の存在が必要なんだな、と改めて思ったこと。そして、今回の視察で出会った事業主体として関わられた人々の姿が重なったからです。

「乗り越える人」をいかに増やすか、をしない限りは特殊解は特殊解のままかもしれない、そんなことを再認識させられた二日間でした。
偶然、大学でお話をできる機会をいただいている者として「特殊解を一般解として理解し、主体的に実践、進めることができる人材」の啓発や啓蒙活動に取り組む重要性を改めて自覚しました。
現地でお世話になった皆さん、新たに繋がっていただいた皆さんに感謝。

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