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PPP的関心2023#13【書籍『行政革命』。今の立ち位置を確認する30年前の視点】

お正月に出会った監修・翻訳メンバーの一人である星野さん(株式会社スターガバナンス社 代表取締役 開発プロデュサー)の紹介で知ったおよそ30年前の書籍『行政革命』を読んでみました。古い本ですが書かれている視点や指摘は今なお…という事柄もあります。
今回は同書を読んで考えたことを書こうと思います。

書籍『行政革命』

「革命」というタイトルは少々刺激的だなと思いますが、内容は過去の工業化が進展する時代においては機能してきた行政(官僚)制度が、時代の変化(情報化社会、知識経済の時代へと向かう変化)に効率的かつ効果的に対処できなくなっている。行政制度にとってこれからの時代への対処のあり方を端的に示しているのが書籍の冒頭「はじめに」に記された”船の櫓を漕ぐ行政から舵を取る行政に転換すること”という一文。この一文が「革命」の意味を端的にわかりやすく表していると思います。
自分の講義の中でも、PPP手法による行政サービスの提供を検討する際には「サービスプロバイダー」ではなく優れたサービスプロバイダーである民間を「マネジメント」する役割へと行政(もちろん市民も)マインドセットを変えるべきだ、という表現を用いていますが、この一文に同じような考え方を受け取ることができます。

以下は書籍の目次です。

序章 アメリカン・ペレストロイカ
1章 触媒としての行政 船を漕ぐより舵取りを
2章 地域社会が所有する行政 サービスよりもエンパワーメント(権限付与
3章 競争する行政 競争が活性化を促進する
4章 使命重視の行政 規制重視の組織から転換する
5章 成果重視の行政 成果思考の予算システム
6章 顧客重視の行政 官僚ではなく顧客のニーズを満たす
7章 企業化する行政 支出するより稼ぎなさい
8章 先を見通す行政 治療よりも予防する
9章 分権化する行政 階層制から参画とチームワークへ
10章 市場志向の行政 市場をテコに変革する
11章 行政革命

書籍『行政革命』目次

30年前と現在の「課題」は変わったか 

書籍は1995年に出版されたので28年前、約30年前の本ということになりますが、目次にあるような「地域社会の所有」「競争」「成果重視」「顧客重視」といった言葉から推察できるような行政サービスの品質向上や持続可能性に通じる「課題」は、その程度の大小はともかくとして今もなお現実の地域社会、地域行政に課題として残っているのではないかと想像しながら読み進めました。
書籍ではケインズの言葉「新しい考えをつくり出すより、古い考えから抜け出すことのほうが難しい」を引用して、行政機関そして市民の考えや姿勢を変えることの難しさを表わしていましたが、まさに今なお課題が残り続ける根底にある組織文化的な難しさを表わしていると思いました。

例えば。5章「成果」の定義と活用

本書は10章に分けられたテーマごとに豊富な事例紹介と事例から一般化・汎用化した「(今後の行政機関のあり方、官民のマインドセットに関わる)視点」について著された書籍ですが、例えばということで5章の成果重視の行政に焦点をあててみます。5章の冒頭にはこんな一文が添えられていますが、そのメッセージがとても気になったからです。

官僚的計画について気づいたことは、規則や形式があるにもかかわらず、自分たちが奉仕している人が実際どうなっているのかほとんど追跡していないことである。もし初めからそれを織り込んでいれば、すなわち成果を追跡していれば、 官僚的形式主義を不要にすることができる。
トム・フルトン (ミシシッピー州セントポール家族住宅基金総裁)

書籍『行政革命』より引用

1年半くらい前のPPP的関心で”PFS(成果連動型民間委託)”について書いたことがあります。内閣府による成果連動型民間委託方式を推進するアクションプランの紹介をしていたわけですが、これから将来に向けてPPP的な行政サービス提供では「成果」を定義し測定することがますます重要な取り組みになってくることは間違いなさそうです。

5章本文では「成果」の定義と測定することの意義などについて事例を交えながら丁寧に書かれています。さらにそれを補足する「業績測定の方法」という資料においていくつか重要な気づきが指摘されています。

①プロセスの測定と成果の測定の間には大きな相違がある
公共組織が業績を測定し始めるとき、管理者が作成するリストは、行政プロセスがどれくらいうまく実行されているか、何人の人間に奉仕したか、どれくらい早く奉仕できたか、要求の何%が一定の期間内に実施できたか、という点を測定するのがふつうである。しかし、アウトプットはアウトカムを保証するものではない。例えば、職業学校が年々溶接プログラムの卒業生数を増やしていったとしよう。しかし、卒業生が溶接工とし仕事を見つけることができなければ、このプログラムは果たして有効だろうか? アウトプットは生み出したかもしれないが、プラスのアウトカムは生み出していない。
能率の測定と効果の測定の間には大きな相違がある
能率とは単位あたりのアウトプットがどれくらいのコストかを測定することである。効果とはアウトプットの優劣を測定するものであり、望んでいた結果がどれくらい達成できたかを調べるものである。 能率を測定すると、投資に費やした時間に値するものかどうかがわかる。ただ、行うべきでないことを能率的に実施することほど馬鹿げたことはない
③「計画のアウトカム」と「政策のアウトカム」との間には重大な相違がある
全米州裁判所センターが業績標準を作成したとき、裁判所の利用のしやすさ、公平性、信頼性、迅速性、政治的中立性、責任義務での一般市民の満足度を測定するアウトカムの標準を考えついた。このような項目を測定するために、裁判所は住民調査、焦点グループなどを利用したが、この尺度は住民にとって一番重要なより多面的なアウトカム (犯罪率、治安、有罪率、 累犯率、被害者への裁判、紛争を解決する方法の満足度)を取りあげてはいなかった。 裁判官は、裁判所だけが犯罪率や有罪治安などに責任を負う機関ではない、という。たしかにこの意見は間違いではないが、住民がもっとも関心を抱いているのは、このアウトカムなのである。

書籍『行政革命』より引用

30年を経た今、改めて今の立ち位置を確認する視点

書籍の冒頭に記された”時代の変化(情報化社会、知識経済の時代へと向かう変化)に効率的かつ効果的に対処できなくなっている。”という課題ですが、世の中の変化には「これで完了」という変化はないと思います。つまりこの書籍での問いかけは、今後も絶え間なく続いてゆく環境変化にいかに対応し続けてゆくことができるかという問いかけであり、課題は課題であり続けるということを意味しているのだと思います。
この書籍は確かに古い本かもしれませんが、現在の立ち位置を確認する上での「視点」を持つ意味では有効な本だと思います。この機会に再読する機会に恵まれたことはよかったです。

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