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東京の劇場 1999.01.14 矢部明洋

  12月も半ばを過ぎてから仕事で東京に出張した。98年は家族が増えたりと雑事が多く、プロレス見物に上京することもなかったので、これ幸いと暇を見つくろっては気に入った劇場へ足を運んだ。

  • 我が心の亀有名画座は澤田幸弘監督特集だった。しかし、映画より何より衝撃だったのは、同館の名物・落書きコーナーで見つけた、大井武蔵野館が間もなく閉館するという早耳の来館者の一文だった。クセの強い日本映画をそろえたプログラムで、強烈な個性の小屋だった。文芸座が消え、並木座が消え、ついに東京でさえ名画座の灯が消えようとしている。亀有は今や日活最後の砦ではなく、名画座最後の砦となった。

  • 私が上京するのを待ってたかのように国立演芸場で桂文治の独演会があった。当然、出かけたのだが、聞けた『源平盛衰記』の出来は良くなかった。体力と勢いの必要な噺と見受けられた。噺家には年齢に応じて旬の噺があるように思う。高座にかけるネタを選ぶプロデューサーのような仕事が、この業界にも必要だ。残念ながら中入りとなったところで仕事の時間となり、文治を聞けたのはこの一席だけとなった。

  • 池袋演芸場へも出かけた。噺家に手が届きそうな距離で落語が聞ける贅沢な小屋だ。こんな所で枝雀や米朝が聞けたら幸福だろうな。私はここで志ん朝は聞いた。出かけたのが東京を離れる日だったせいで小一時間しか居られなかったが、来れただけでよかろう。

  • 今が旬だというバトーラーツのプロレスを東京FMホールで見た。かつての新日本の前座試合のようなバチバチの試合ぶりがファンやプロレスマスコミに歓迎されているようで、その気持ちはわかる。しかし、メーンの社長・石川雄規の試合は猪木ごっこにしか見えなかった。石川の猪木芸がセミにとどまり、アレクのストロングスタイルな試合か格闘技戦がメーンを取るようにならねば。このままでは新日パロディー団体だ。

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