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足元

あれは高校3年生の8月半ばのこと。
まだ化粧で顔をごまかせなかったあの夏の夜。

いつものように遅刻してくる、
定義上どんな関係でもない君を
今日は来るな来るなと
待ち続けたあの日の話。

出会いは一瞬だった。
いままでの恋愛が無駄だったと言ってしまうほどの加速だった君。
今日もいつものごとく。

いつもと違う靴を履いてきた君。
コンビニで線香花火を買って知らない公園に行った。
それはまだ日の長い夕方のことだったから空が暗くなるまで2人、
公園の端っこのブランコに揺られていた。
好きな音楽を話した。
出会ったことの話をした。
君のモテ話を聞いた。
本当にそんな話をしたのかも定かでないが


私は大事な話を線香花火の後に言おうとしたことが
浅はかな考えであった。


花火の明るさをどちらがきれいに動画に収められるかを競っているとあと数本になっていた。
私が撮る動画のほうが何千倍もうまかった。

私は後に君の声が入っている動画がカメラロールにそれのみだと気付く。

最後の1本が終わったとき君は私の何かを求めていた。
私も君の何かを求めていた。
言っておくが残念ながら単純なハッピーエンドのお話ではない。

君はそのまま私にもたれかかり電車の時刻表を見た。

結局私は何も言えないまま
駅まで2人で歩いた。
私は車道、君は車道と歩道の狭間。
いつもより背丈の大きい君の腕をとって言った


この前も言えなかったんだけどさ、、、



君は様々な言葉を羅列して言った




今が一番最高だって。


その最高の言葉は私のなかでは最低な言葉。
定義上では今までと何も変わらない関係性。

そして最後に君は言った。


僕にはあなたしかいない。


と。


と?
僕にはあなたしかいないのに恋仲にはさせてくれないのかよ。
胸糞悪いのもいい加減にしろよと言わんばかりのおかしさだった。
分かりやすく解説すると
付き合わないけど今の関係性がとても素晴らしいものだということ
私を大切にできる自信がないこと
んまあそういうことらしい。

ゴミ箱のふちにぎりぎり引っかかったゴミみたいだった。
捨てるならきちんと捨ててほしかった。
もし君がセフレなら、
もし君がDV男だったら、
もし君が犯罪者なら、
もし君が憧れのスタバ店員なら、
こんなことされるよりよっぽど楽だったのに。


君は何も言わず私を抱きしめた。
1度だけ振り返って駅のホームに姿を消した。



君の好きな音楽の話。
私のプレイリストに入っていた君から教えてもらったあの曲は
あの夏きり聞いていない。
あの夏の日のことを思って聞いていたあの曲は
今もカラオケで十八番だったりする。
あの夏の日の帰り道
何が何だか分からなかった私は
何が何だか分からない涙を落した。
君と会うときは絶対に雨が降らなかった。
夏の象徴だね。
君と私の物語は夏いっぱいに納まった。


私は知っている。
あの夏の日、君は私と同じ靴を履いてきたこと。



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