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焼きうどん3
アラームが鳴る10分ほど前に目が覚めた。洗面台で水の流れる音がする。
どうやら彼女もすこし早く目が覚めてしまったようだ。
「おはよう」
「おはよ〜、早いね」
「君の方が早いでしょ。寝れた?」
「ばっちり、なんならいつもよりスッキリしてるかも」
「そりゃよかった」
彼女はすでにメイクを軽く済ませ、ポットにほうじ茶を入れてくれていた。
甘く香ばしい香りが部屋に漂っている。ずずず、と啜ると、湯呑みの底に茶葉が残っていて、少しむせた。
彼女は、いつでも出れるよ、と声をかけ自分の部屋に戻っていった。
顔を洗って、歯を磨く。着ていく服は何にしよう。運転がしやすいように、ストレットが効いた大きめのチノパンと、お気に入りのラルフローレンのシャツを羽織っていくことにした。
行こう、と声をかけ、二人で玄関を出る。
「やっぱり、なんか、変な感じだね」
「久しぶりに出かけるからなぁ」
学生最後の年に買った、白のセダンに乗り込み、シートベルトを閉める。
ローンは一昨年払い終えたばかりだった。
あたりは静まり返っていて、車のエンジン音だけが不自然に響き渡っていく。
バックミラーに目をやると、空が少し明るんでいるのがわかる。
「こんな早い時間に出かけるなんて、いつ以来だろう」
「そうだね、お腹すいた〜」
「コンビニに寄ろうか」
「そうしよう」
細い道から国道に入ってしばらく走らせると、お目当てのコンビニにたどり着いた。大型トラックが駐車できるスペースがあり、店舗の前では長距離ドライバーであろう男性たちが、煙草を燻らせながら語らいあっていた。
僕は眠気を覚ますためにアイスコーヒーと惣菜パンを購入し、彼女は水とサンドウィッチ、ピーナッツ入りのチョコボールを買っていた。お菓子が好きなのは昔から変わらない。
運転しながら食べようとしていたが、「ゆっくり行こう」と言ってくれたので、駐車場でトラックドライバーを見ながら食べることにした。
「なんかデジャブだな、って思うよ」
「何が?」
「私たちよく大学のカフェテリアで会っていたでしょ?お互い、贅沢できる余裕なんてなかったから、よくパンとお菓子買って、時間潰してたな〜って。私楽しかったのよ、とても。それ思い出しちゃって」
「そんなこともあったね」
当時周囲のカップルは旅行へ行ったり、街に繰り出したり、そういった自慢話をされることが多かった。対照的に、大学のカフェが私たちのスタイルだもんね〜と、学生の頃彼女は言ってくれていて、忙しい手前、その言葉にほっとしていたが、一緒に過ごすうちにそれでいいはずもないと気づくようになった。
彼女が電話を取り出す。
「あ、もしもし〜、すみません、本日急遽体調を崩しまして… シフトの人数は足りておりますので、はい。
有給扱いでお願いできますか? すみません〜助かります。はい、失礼します」
「よかったのか」
「よかったのか、じゃないわよ。あなたが急に誘ってくるんだもの」
「そうだったな」
笑って場を濁し、妻を見ると、なんだかワクワクしているようで、今までに見たことがないような晴れやかな表情をしていた。計画も何もない、急なサプライズだったけど、喜んでくれたことに安堵の気持ちでいっぱいだった。
「何よ、ニヤニヤして。ふふ」
「なんでもない、行こうか」
不要なものを捨て、服についたパンの粉を払い、座席の位置を調整する。
太陽はまだ半分ほどしか顔を出していない。
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