見出し画像

毎日食べていたことを思い出した

 当時、私は、実家から車で通勤していた。
仕事が終わると、そのまま車を走らせて、ジムへ向かう。
その道の途中にコンビニがあり、いつも吸い寄せられる
ように車を停めていた。

あの、のぼりが目に入ると、どうしてもウィンカーを出さずにはいられない。そして、食べずにはいられないのだ。

お店に入ると、それは、何種類か並んでいる。この時間は、大抵、揚げたてだった。
たまに、期間限定の味というのもあって、飽きさせない。
増量キャンペーンもあり、思いがけず、お得感を味わえる。
いつの日も、私の心をつかんで離さなかった。

今年で34歳。ファンクラブもある、あの人。

その名は、からあげクン。

         ***

 夕暮れ時、周りにはぽつぽつと車が停まっていて、仕事帰りの人、仕事途中らしき人を横目に見ながら、からあげクンを一つ口にほうり込む。
有り難いことに楊枝が一本付いているんだけど、ほぼ使ったことがない。
楊枝の袋を開けることさえ、待てないのだ。

一つ食べたあと、とてつもなく甘い缶コーヒーをごくりと飲む。
しょっぱいもの、甘いもの、しょっぱいもの、甘いもの、の繰り返しは背徳感と隣あわせだけど、1日溜まった黒いかたまりを溶かしてくれるような気がしていた。

 空腹と何かを満たしたら、寄り道は終わり。
ジムへと車を走らせる。これが、私の会社終わりのルーチンになっていた。

                                   ***

 なんだか、毎日、イライラしていた。
同僚とそりがあわない。というか、私が一方的に彼女が苦手だった。

年が同じということだけしか、共通点が見いだせず、会話がいつもかみあっていなかった。

 もし、私たちが学生だったら、あきらかに違う層にいて、交わることはなかったと思う。友達にはならないタイプ。
けど、ここは会社なわけで、友達になれなくても、円滑に仕事をやらなくちゃいけない。

 事務作業をしながら、彼女の恋愛話をよく聞いていた。よくもそんなにいろんな事が起こるなぁ、と半分感心、半分あきれながら。
彼氏とケンカした、と言って仕事中に泣いたり、彼氏から連絡がきたと、仕事を投げ出して一目散で帰ったり、とにかく彼氏中心で世界が回っている。
そんな彼女を冷めた目でみていた。

 彼女の話を聞いていると、ふつふつと黒いかたまりが溜まってくる。
そっち方面で何かをこじらせていた私は、恋愛で一喜一憂している彼女に嫉妬していたのかもしれない。
恋愛こそがすべて、そんな彼女がとてもうらやましかった。

黒いかたまりが溜まって、どんよりした1日。
私の気分を変えてくれたのが、からあげクンだった。

 その節は、大変お世話になりました。
今でも時折、思い出して食べたくなる。残念ながら近所にローソンがないので、思い立ったときに買いに行けないのが悔しい。
私の中で、ローソンがコンビニ第1位で揺るがないのは、あなたがいるからです。
宇宙食にも認定されたそうで、おめでとうございます。

私の子どもが大きくなったら宇宙飛行士になりたい、と言っていたので、もしかすると、国際宇宙ステーションであなたを食べるなんてことがあったりして。
妄想するだけでも楽しいです。

(おしまい)

 よこゆいさんのこちらの記事を読んで、毎日、食べていたあの頃を思い出しました。

貴重な時間を使って、最後まで読んで 頂き、ありがとうございます。 よかったら、また覗きに来てくださいね。