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めくるめく季節の淡夢

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2023年月1連載小説。 BOOTH、文学フリマ京都7にて販売した小説カレンダーに書かれた短文を元に書きました。月が落ちてきた世界で、唯一の光だった彼女を探す少年の話。
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#3月

【小説】君の花弁とぼくの足音

前話  潮の匂いに足を速めると、一気に視界が広がった。  ずっと南に歩き続けて、どれくらい経っただろうか。明確な目的地を決めないまま、ただ君の面影だけを探して歩いていた。  南には海がある。家族とも、晴臣とも行ったことのある海だ。大きな海と小さな海があって、人は大きな海に集まる。大きな海には焼きそば屋があるし、浮き輪を貸してくれる店もあった。泳げないけれど海に来たがる晴臣は真っ先に浮き輪を腰に下ろして、いつでも遊べると準備満々の顔で僕を見ていた。この海に晴臣はいない。晴