【小説】無垢の砂漠と君に似た月
月の遺産を聞いたことがあるか。
月面探索を達成した宇宙飛行士でさえ見つけることのできなかったそれが一体どこに残されているのか、まだ誰も知らない。
誰が、何を残したのか、何のために。
世紀の大発見ともされるであろう月の遺産は、僕にとってはあまりに陳腐なもので、水に捨ててしまった。あの日の僕が欲しかったのはそんな眩しいものではなくて、二人で切り分けたショート―ケーキの片方みたいに、小さくてあたたかいものだった。半分になったいちごを見つめて笑うような人だった。
月の遺産