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めくるめく季節の淡夢

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2023年月1連載小説。 BOOTH、文学フリマ京都7にて販売した小説カレンダーに書かれた短文を元に書きました。月が落ちてきた世界で、唯一の光だった彼女を探す少年の話。
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#4月

【小説】櫻の木の下に埋まる君

前話 「あの頃は、もっと」  その先の言葉は空気に溶けて、再度口にされることもなかった。  祖父の視線の先には、花を咲かせない桜の木が空に広がっている。数年前から花を咲かせることのなくなった花は、今年切り落とされる予定だ。それが決まって以降、祖父はいつも縁側に座っている。  桜の木は、曽祖父が生まれたときに植えられたものらしい。祖父も小さい頃は桜の木に登って遊んでいたらしいが、今はただ見つめているだけだ。 「おじいちゃん」  名前を呼べばゆっくりとこちらに顔を向ける祖