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前話 「あの頃は、もっと」 その先の言葉は空気に溶けて、再度口にされることもなかった。 祖父の視線の先には、花を咲かせない桜の木が空に広がっている。数年前から花を咲かせることのなくなった花は、今年切り落とされる予定だ。それが決まって以降、祖父はいつも縁側に座っている。 桜の木は、曽祖父が生まれたときに植えられたものらしい。祖父も小さい頃は桜の木に登って遊んでいたらしいが、今はただ見つめているだけだ。 「おじいちゃん」 名前を呼べばゆっくりとこちらに顔を向ける祖