死ぬところだったー「サバイバル日本語」の大切さ

 中国出身の中学生を教えている時に、次のようなことがあった。第1回目の通級で、いろいろな書類に記入させるが、この生徒は自分の住所を何も見ないでスラスラ記入した。外国出身の生徒には珍しいことなので、理由を聞いてみると、次のようなことを言った。
 「夜寝ていると、ふと目が覚めた。すると、自分の家が火事になっていた。消防署に電話をかけたが、住所を聞かれても答えられなかった。それから自分の住所を覚えるようにした。あの時、目が覚めずにそのまま寝ていたら、僕は死んでいたんです。」
 この生徒の話から、外国人児童生徒への初期指導について重要な示唆を得られた。それは、最初に「サバイバル日本語」をきちんと教えなければならないということだ。そこで、「サバイバル日本語」について、次の3点から述べることとする。
1 自分のIDを日本語で言えること。
 私が勤務していた日本語教室は、「通級型」の教室で、生徒は学校から「自力で」通級できることが条件になっていた。通級には市教委の許可が必要で、通級の可否を判断するための面接を行うことになっていた。       
 教室設立当初の面接では、学習意欲や学校への適応状況などに関する質問が中心だったが、この話を聞いてから、下に引用した文書の「安全確保」に関する質問もすることにした。私たち講師は、こういうことは、外国人指導協力員(ネイティブ指導員)が、編入当初に当然指導してあるものだと思っていたが、こちらが知る限り指導された生徒はいなかった。面接の場で、いきなり質問されると、ほとんどの生徒が答えられなかった。            
 そこで、質問の内容を、中学校に事前に知らせて、指導するように依頼することにした。すると、学級担任の先生に一生懸命指導されて、覚えてくるようになった。

(中学校への依頼文書の一部)
2 質問の内容
(1) 安全確保に関すること。
 ① 自分の名前、中学校名、住所を日本語で言えますか。
 ② 電車やバスを使って通級する場合、乗車駅(バス停)や降車駅(バス 停)の名前を日本語で言えますか。漢字が認識できるだけでなく、発音ができますか。
③ もし迷子になった時など、中学校や当教室に電話をかけることができますか。

2 緊急通報ができること。
 次に、通級開始後の最初の指導で、緊急時の通報について指導することにした。具体的には、上の引用箇所の③「中学校や当教室に電話をかける」練習をさせた。自分のスマートホン等を持っている生徒には、番号を登録させた。自分のスマートホンを持っていない生徒は、公衆電話のある所に連れて行き、使い方を練習させた。
 さらに、警察署や消防署へ通報することも指導した。下の表のとおり、警察や消防署の電話番号は、国によって区分方法や電話番号が違う。フィリピンやアメリカのように、緊急通報は全て911番となっている所もあるが、中国のように交通事故専用の通報先が設定されている国もあるようだ。
 日本の警察署と消防署の電話番号を教えて、「日本では火災と救急車の要請は同じ119番になっている」ことを教えなければならない。警察や消防署には、実際に電話をかけて練習することができなかったが、「火事です」「交通事故でけがをしました」などの表現は、口頭練習をさせた。

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3 その他の表現
 「サバイバル日本語」は、この他にも「頭がいたいです」「血が出ています」など、病気やけがの症状等に関する表現も含まれる。それらは、画像の書籍「にほんごをまなぼう」などを使って、指導することができる。

 近頃は、スマートホンの翻訳アプリ等を使えば、日本語を習得していなくてもコミュニケーションが可能となったが、「危ない!」「止まれ!」など瞬時に理解しなければならない表現は、来日当初に確実に指導する必要があると私は考える。

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