「法律上併存し得ない関係」とは?同時審判の申出(民訴法41条)【司法試験対策tips】安田ノート

「なんとなく両立しなさそうだから同時審判の申出を使えるかな…」

このような理解で同時審判の申出を使っていませんでしょうか。

この制度の対象となるのは、ある当事者と別の当事者に対する請求が「法律上併存し得ない関係」が認められる場合であると定められています(41条1項)。

では、このような「法律上へ依存し得ない関係」の意味を的確に説明できるでしょうか。また、定義が述べられたとして、事実に即して説明することができるでしょうか。

以下では、事例を用いながら、検討の方向性を示しておきます。ここでの解説を踏まえて、過去問演習にチャレンジしてみてください。

法律上併存し得ない関係とは?

まず、「法律上併存し得ない関係」は、以下のような場合に認められるとされています。

一方の被告に対する請求原因事実が他方の被告の抗弁事実になるような、両請求が法律上成り立たないような場合(ともに認容され得ない場合)をいうう。

『新・コンメンタール民事訴訟法』(日本評論社)41条の解説「3 法律上並存し得ない関係」

例えば、

  1. 代理人により売買契約が締結された場合において、本人に対する履行請求と無権代理人に対する損害賠償請求の関係

  2. 民法717条により工作物に基づく損害賠償請求がされる場合における工作物の占有者に対する損害賠償請求と工作物の所有者に対する損害賠償請求

が、「法律上並存し得ない関係」にあるとされています。

有権代理の要件事実と無権代理人に対する損害賠償請求の要件事実

今回は、1.の代理人のケースについて、要件事実を整理してみます。

本人に対する請求

まず、本人に対する請求の請求原因事実は以下のようになります。

【請求原因】
1.  代理人による意思表示
2.  1.に際して本人のためにすることを示した。
3.  1.に先立って本人から1.に関する代理権が授与された。

無権代理人に対する請求

一方、無権代理人に対する損害賠償請求の請求原因事実は以下のとおりです。

【請求原因】
1.  原告と被告の間で契約を締結した。
2.  1.の際、被告が本人のためにすることを示した。
3.  損害の発生とその額

この主張に対して被告からは、民法117条1項に基づき以下の抗弁を主張することができます(「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき……を除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」)

【抗弁】
請求原因に記載された契約に先立って当該契約の代理権が授与された

このように、本人に対する請求原因事実である「3.」の事実が、無権代理人に対する請求との関係では、抗弁事実となります。

つまり、「3.」の事実が認められれば無権代理人に対する請求は認められない(本人に対する請求は認められる)、逆に、「3.」の事実が認められなければ本人に対する請求は認められない(無権代理人に対する請求は認められる)ことになるので、法律上併存し得ない関係にあるといえます。

事実上併存し得ない関係にある場合は?

なお、事実上併存し得ない関係が認められるにとどまる場合は、本条の適用対象とはなりません。もっとも、法的択一関係には至らず論理上の択一関係(事実上の択一関係)にとどまる場合には、本条の類推適用を認める考え方も成り立ちます(前掲『新・コンメンタール民事訴訟法』参照)。

答案作成上は、類推適用を認める立場で論じても問題ないでしょう。

コラム-ある制度を押さえるときの学習の指針-

法律の学習を進めていく際は、必ず「具体例」とともに学習していくようにしましょう。今回挙げた具体例は、ポケット六法などの学習用六法だと、条文の後ろにある「参照条文」の箇所に紹介されています

ある制度を学習するときは、まずは、一般的な説明を確認します。今回であれば、「一方の被告に対する請求原因事実が他方の被告の抗弁事実になるような、両請求が法律上成り立たないような場合(ともに認容され得ない場合)」が問題になることを確認した上で、具体例へ当てはめていくようにしましょう、

このようなプロセスを経た知識は、「記憶」だけではなく、「経験」として積み重なるので、いつでも引っ張り出せる知識となります。

今回は、「法律上併存し得ない」という要件について見てきましたが、他の要件や効果についても合わせて確認するようにしておきましょう。

書籍紹介

今回紹介した『新・コンメンタール民事訴訟法』は、条文ごとにコンパクトに解説がなされているので、知識整理に使いやすいです。電子書籍版だと、出先でも確認しやすいので重宝すると思います。

ご要望があれば、コンメンタール活用法なども書きたいを思いますので、ご希望の方は、コメントやTwitterのDMからお送りください。

関連過去問(ネタバレあり)

過去問として、平成30年予備試験民事訴訟法を挙げておきます。ぜひチャレンジしてみてください。

誰に対する請求なのかを整理した上で、要件事実を検討してみるとわかりやすいでしょう。

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