【解説動画付き】令和2年司法試験環境法第2問論述例

設問1

1 特別地域とは、国立公園における風致を維持するため、公園計画に基づいて、その区域内に指定される地域のことをいう(法20条1項)。この地域においては、20条3項各号で列挙される行為をするには、環境大臣の許可を受けなければならない(20条3項柱書き本文)。事前許可制を採用したのは、特別地域が、当該公園の風致を維持するために重要な地域だからである。

2 一方、普通地域とは、特別地域に含まれない区域のことをいう(法33条1項柱書き参照。)。この区域内においては、33条1項各号で列挙されている行為をする者は、環境大臣に 届出をしなければならない。普通地域は、特別地域とは異なり、風致を維持するための必要性が高いわけではなく、バッファとしての地域となるため、必要に応じて行為の禁止等の措置を執るべき旨を命じることができるに過ぎない(33条3項)。

3 上記のようなゾーニングが行われるのは、「関係者の…財産権を尊重する」(法4条)ために、風致や景観の保全の必要性に応じて、きめ細かな行為規制を行うためである。
 このようなゾーニングなしに、一律に許可制を執ることは、財産権の過度な制約となるため、このような地域指定が採用されている。

設問2

1 Aの計画は、ホテルを建設するものである。そのため、20条3項1号の「工作物の新築」に該当する。そのため、環境省令で定める基準に適合しなければ、これを行うことができない(20条4項)。

2 この基準に適合しているといえるためには、規則11条が引用する「許可基準」をみたさなければならない。この基準のうち、第1項2号イによると、「第一種特別地域」「内において行われるものでないこと」が要件とされている。Aの計画は、「第一種特別地域内」におけるホテルの建築であるから、この要件を満たさないとも思える。

 もっとも、規則11条ただし書は、「第2項ただし書に規定する行為に該当するもの」については適用しないとしている。第2項ただし書は、「既存建築物の改築等」に該当するもので、1項5号に該当するものは「この限りではない」と規定する。ここでいう「既存建築物の改築等」の定義は資料の「注「既存建築物の改築等の定義」によれば、「災害により滅失した建築物の復旧のための新築」が含まれると規定される。このような新築に該当するものであって、かつ、第1項5号の要件を充たすのであれば、規則11条ただし書の「第2項ただし書に規定する行為」に該当するとして、第一種特別地域内の新築であっても許可される可能性がある。なお、この場合にも、後述のとおり、規則11条37項の要件を別途満たす必要がある。

 そこで、本件の計画をみると、本件ホテルの建築計画は、B市周辺を震源とする大規模な地震が発生したことを原因として、建物の安全性の確保の観点から一度解体したものである。そうすると、「災害により滅失した建築物の復旧のための新築」に準ずるものと取り扱うことができる。

 次に、本件計画は、「元の所在地と同一の位置に、柔然と全く同一の高さ、面積とデザインによる建物を建築する」ものであるから、国立公園の指定を受け、第一種特別地域に含まれるに至った時期となんら異なるものではない。よって、第1項5号の「……周辺の風致または景観と著しく不調和ではないこと」という要件を充足する。

 したがって、第2項ただし書に規定する行為であるから、第一種特別地域内であっても、許可される可能性はある。

3 上記を踏まえて、規則11条37項の要件に適合しているかを検討する。まず、1号該当性について、上記のとおり、解体前と同一の位置に建築し、それ以外の外観等の条件も従前のものと同一の内容にするものであって、第一種特別地域に指定された当時の外観を持つように計画しているものであるから、「……風致または景観の維持上の支障を軽減するため必要な措置が講じられている」といえる。

 次に、2号該当性についても、本件計画が、解体前と同一の状態を実現すべく計画されたものであるから、「……風致又は景観の維持に著しい支障を及ぼす特別な事由があると認められるものでない」といえる。

4 よって、問題文に現れた事情の限りでいうと、本件の計画に対して、環境大臣は許可を出すべきである。

設問3

1  20条3項に基づく 許可がなされない場合は、法64条1項に基づき、不許可補償を請求することになる。そこで、「通常生ずべき損失」の意義を明らかにした上で、本件Aが、補償を請求できるのかを検討する。

2 損失補償は、特別の犠牲があった場合に認められる。そこで、通常生ずべき損失とは、不許可により出捐を余儀なくされた実損害「通常生ずべき損失」であると解すべきである。このような損失は、公共の利益のために不許可を受けたことによって生じた特定個人の経済的な損失であるといえるからである。

 一方で、地価低落相当額が通常生ずべき損失であるとする見解もありうる。しかしながら、利用制限自体は、当該土地に内在している制約であるといえるからである、地価が下落しても、これは損失には該当しない。

 また、相当因果関係のある損失であれば補償の対象となる考え方もありうる。しかしながら、損失補償は、不許可自体により生じる不利益を補填するものであるから、許可がなされた場合に得られたであろう利益は含まれない。また、これを含むとすると、許可申請者の思惑により補償の対象となったりならなかったりすることになり、「通常生ずべき損失」という文言と整合しない。

 本件では、不許可により何かしらの出捐があったとは認められないので、損失補償は認められない。また、上記の理由から、地価低落相当額及び営業再開による利益の補償は認められない。

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