会社法429条1項「第三者」、「損害」の意味ー株主が被る直接損害・間接損害【司法試験対策tips】安田ノート

……株主が間接損害を被った場合は「第三者」(429条1項)に含まれない、というお決まりのフレーズを書ければ大丈夫?

間接損害の話はよく聞くけど、直接損害の場合ってどのような場合なのかを説明できるでしょうか。知識が偏らないように、バランスよく対策を進めていきましょう。

以下では、備忘録として、質問を受けた際に行っている回答を残しておきます。

株主が被る直接損害の具体例

株主が直接損害を被ったといえるケースとして、例えば、吸収合併の存続会社が、消滅会社の株主に対して、対価として交付した株式数が、本来交付されるべき数よりも多かった場合が挙げられます。

このケースでは、本来より多くの株式の交付を受けた消滅会社の元株主が利得する一方で、従来からの存続会社の株主は株式価値の希釈という損失を被ったといえます。

なお、募集株式を有利発行したために既存株主が損害を被った場合は、この損害が間接損害か直接損害かは争いがあります(髙橋ほか232頁。この点に関しては、327頁のCOLUMNが参考になります。)。

株主が被る間接損害の具体例

株主が間接損害を被ったケースとして、取締役のいい加減な経営により会社財産が喪失し、株式価値が低下した場合が挙げられます。

このような間接損害を被った株主が429条1項の「第三者」に該当するのかに関しては、原則として「第三者」には該当しない、とする見解が一般的です。

試験対策としても、この立場によるのが無難だと思います。あとは、理由づけを的確に書くことになりますが、「論証で書いていることが理解できない」という質問を受けることがありますので、少し敷衍しておきます。

では、なぜ、間接損害を被った株主が「第三者」に該当しないと考えるのでしょうか。これは、株主の被った損害を回復するために必要なことを考えるとわかりやすいと思います。

低下してしまった株式の価値は、会社に生じた損害が補填されることで回復させることができます。そうすると、株主としては、会社の取締役に対する損害賠償請求が認められれば問題ないはずです。

もし、株主の429条1項に基づく責任追及を認めると、取締役は、会社に対す
る責任と株主に対する責任の二重の責任が生じることに
なってしまいます。

株主の損害賠償請求を認めつつ、このような二重の責任が生じないようにするためには、取締役の責任額を減少させることが必要になります。しかしながら、このような処理によると、増加するはずの会社財産が増加しない結果となってしまいます。

このような処理を認めると、会社債権者よりも早く株主が弁済を受けたのと同じ処理になってしまいます。そのため、株主が、取締役に対して損害賠償請求を行うことは認められないと考えるべきであるとされています(高橋ほか230頁参照。)。

おきまりのフレーズがどういう意味なのかを理解することで、全体の構造をつかむことができるようになります。

参考文献の該当ページを読むことで、さらに理解を深めるようにしてみてください。

参考文献

髙橋ほか:髙橋美加・笠原武朗・久保大作・久保田安彦『会社法〔第3版〕』(弘文堂)

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