イタドリ2

さだまさし、北原白秋、宮沢賢治、金子みすゞと「すかんぽ」はスイバなのかイタドリなのかという問題について。

知り合いの「かがり」さんの名前の由来が前の東京オリンピックのトーチ=篝火(かがりび)にあると聞いて思い浮かべたのが、さだまさしの「風の篝火」という曲。

風の篝火 作詞/作曲 さだまさし

水彩画の蜉蝣(かげろう)の様な
君の細い腕がふわりと
僕の替わりに宙を抱く 蛍祭りの夕間暮れ
時折君が散りばめた 土産がわりの町言葉
から廻り立ち停まり
大人びた分だけ遠ざかる
きらきら輝き覚えた 君を見上げる様に
すかんぽの小さな花が
埃だらけで揺れているよ

不思議絵の階段の様に
同じ高さ昇り続けて
言葉の糸を紡ぎ乍ら 別れの時を待ちつぶす
君ははかない指先で たどる明日の独り言
雲の間に天の川
君と僕の間に橋が無い
突然舞い上がる 風の篝火が
二人の物語に 静かに幕を引く
ふりしきる雪の様な 蛍・蛍・蛍
光る風祭りの中
すべてがかすみ すべて終る
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さだまさしが、長野県辰野町の蛍祭りを題材にして、都会へ出た女性と地元に残った男性の間にいつの間にか開いてしまった距離の無常を描いた、叙情的で幻想的な詩。
美しい日本語。
さだまさしがこの曲を作ったのは27歳の時。
そんな若さでこういう言葉を紡ぎ出せるなんて、さだまさしはやはり天才。

さて、僕がこの風の篝火を聴いたのは高1の頃だろうか。
ずっと気になっていた言葉があった。

「すかんぽの小さな花」
「すかんぽ」って何だろう?

今ならささっとググるのだけれど、昔はそんなこともできず、気になったままずっと放置していたのを、ようやくググってみた。

「すかんぽ」と呼ばれる植物にはは、スイバ(酢葉)とイタドリ(痛取)の2つがあって、多くはスイバの別名が「すかんぽ」であると書いてある。

スイバとイタドリは、同じタデ科の多年草で両方とも「すかんぼ」の別称があって、日本でも西洋でも食用にする。

スイバとイタドリの見分け方は、スイバの葉は細長く、イタドリの葉は丸っぽく、背丈はイタドリのほうがずっと高い。

ちなみにスイバはフランス料理では「ソレル」とか「ソレイユ」とかいうしゃれた名前で立派な食材となっているらしい。
あ~!どこかにソレイユというフランス料理のレストランがあったな!

さてさて、スイバもイタドリも「すかんぽ」という別名がある。

では、さだまさしの「風の篝火」で歌われている「すかんぽの小さな花」はスイバなのか?イタドリなのか?

これがスイバの花。

そしてこれがイタドリの花。

蛍の季節に咲くのはどっち?
蛍の季節は5月頃から7月頃。

スイバの開花時期は5月~8月。
イタドリの開花時期は7~10月。

うーむ。これでは判らないねえ。

さて、

「すかんぽ」はこんな作家たちも歌に詠んでいる。

まずは、

宮沢賢治。

大正4年4月、賢治はこんな歌を詠んでいる。
・・・・・・・・・・・
ちいさき蛇の執念の赤めを綴りたるすかんぽの花に風が吹くなり
・・・・・・・・・・・
イタドリの花は普通は白いのでこの「すかんぽ」はスイバだと思われる。

この年、賢治は中学校を卒業したが希望した進路に進めず、おまけに鼻炎が悪化し4月中旬から盛岡市岩手病院に入院、疑似チフスの疑いがあって5月中旬まで入院した。おまけに付き添っていた父政次郎も腹部腫瘍で治療を受けることに(T_T)。
なので、この歌は賢治の心情を表してか屈折した感じがする。

次は、

北原白秋
・・・・・・・・・・・・・・・・
すかんぽの咲く頃
北原白秋作詞 山田耕筰作曲

土手のすかんぽ、
ジャワ更紗。

昼は蛍が
ねんねする。

僕ら小学
尋常科。

今朝も通って
またもどる。

すかんぽ、すかんぽ、
川のふち。

夏が来た来た、
ド、レ、ミ、ファ、ソ。
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初夏の歌なのだけれど、イタドリもスイバもどちらも初夏には開花しているので、この「すかんぽ」がイタドリかスイバか判別はできない。

続いて、

金子みすゞ

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すかんぽ

すかんぽ、すかんぽ
みいつけた。
豆の畑の畔道(あぜみち)に。

遠いお里よ、あのころよ、
とうに忘れた、その味よ。

  ここは巨きな都會(まち)の裏、
  一山越えた、段畑(だんばたけ)、
  ぽうと鳴るのは汽船(ふね)の笛、
  ごうとひびくは、なんの音。

すかんぽ、すかんぽ
噛みしめて、
空のはるかを見た時に、
なんの鳥やら、わたり鳥、
群れて、ちひさく行きました。

『金子みすゞ童謡全集』(JURA出版局)より
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、この「すかんぽ」もスイバなのかイタドリなのか判別し難い。

結局良く判らず仕舞いであったけれど、久しぶりにあの酸っぱい「すかんぽ」を食べてみようと思ったのであった。

なんせ、フランスではソレイユなんておしゃれな名前なんだから。

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