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家を手離す

高校を出るまで住んだ姫路の実家がようやく手から離れることになった。高度成長期に山を切り崩した新興分譲地の、父親が作り上げた家に、母親の死後3年半見つからなかった引き継ぎ手が、ようやく見つかった。

自分の人生におそらく一番影響を与えたのは父親だと思う。父親から繰り返し刷り込まれたのは、自分で望んで本気でやり続ければ何でもできるという自己効力感だった。実際は、ままならないことだらけだったが、この考え方はそれなりの結果にもつながり、根拠のない自己効力感を高めていった。

もちろん、この結果につながったのは、自己効力感による自分の努力だけでなく、父親や母親が勉強やスポーツに集中できる環境を作ってくれたのが大きい。その象徴が、独立して零細企業を立ち上げた父親が必死で作って守ってきた、この家だったかもしれない。

満たされない自分の野心を息子に投影する父親は、やがて息子にとっては次第にうざったい存在にもなり、いつしか言葉を交わさなくなった。当時は当たり前だった愛のこもった鞭という名のしつけも、15歳の時にたまらず反発した息子の力が上回って以降はなくなり、そして没交渉となった。

家を手離すにあたり、そのころの誕生日に父親が私に向けた手紙が出てきた。読んだ記憶も、渡された記憶も、ない。誕生日におくる 父より と書かれた父親の会社の社名の入った封筒は今机上にあるが、なぜかまだ読む気にならず、その乱暴に破れた封をただ眺めている。

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このような数多くのありふれた、だがその家族なりのストーリーを紡いだ家が空き家となって全国に増えて、新興住宅地が寂れ、コミュニティがなくなっていっている。

一般社団法人ALIVEの2021年2期の答申先の一つは福岡県那珂川市の株式会社ホーホゥ。福岡市のベットタウンとして人口増で最近市制となった珍しい地域を、単なる寝に帰る場所でなく、食う寝る遊ぶができる町にするために、自治体主導だけでないパブリック(みんなが関わる場)を作ろうとしている。

人口増に頼らない、地域に根付くコミュニティづくりをどのように実現していくか。そのモデルを生み出したい。

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