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白川町民的 映画「his」感想

宮沢氷魚さん、藤原季節さん主演、同性愛をテーマにした映画「his」。
出身地・白川町が舞台となっていたこともあり、公開直後に見てきました。

ひとことで感想を言うなら、「全白川町民に見て欲しい映画」です。

町民目線で、感想を書いてみたいと思います。

白川町の情報はほぼリアル

ロケ地に使われたといっても、あくまで「架空の町」として登場したのかなと思っていましたが、ちゃんと「白川町」として登場しました。
よいいち、ピアチェーレ、スーパーマツオカ白川店、白川橋…。町民には馴染みの風景がたくさん出てきます。
「この町は人口が8000人余りで、ほとんどが高齢者」というセリフもあり、実際の白川町の情報に基づいています。
そして、緒方さんや房子さん。本当に町民かと思うくらい、白川町の中に馴染んでいました…!「白川のジン(人)は」という方言、懐かしかったです。

「岐阜にイジュー!」とのつながり

企画・脚本を担当されたアサダアツシさんは、白川町を舞台にしたドラマ「岐阜にイジュー!」の脚本も担当されていました。
そのためか、「岐阜にイジュー!」を彷彿とさせるシーンも多く、「イジュー!」ファンとしても嬉しかったです。
例えば、移住サポートセンターの方との関わりだったり、鹿狩りだったり、公民館での麻雀だったり、お葬式の会食だったり。
「不便を楽しむ」このセリフはドラマでも登場しました。
勝手に、美里さんと伊勢谷さんが一緒に働いている風景を想像してしまいました。
映画hisと岐阜にイジュー、両方見ることで、主人公たちが暮らす風景により深みが増してきます。

白川町の人たちの「優しさ」

映画全体を優しい空気が包んでいて、その優しさに主人公たちも、見ている私たちも救われたような気持ちになりました。
ただ、「田舎はこんなに優しくない」そんな感想も時々見かけました。
実際は…、もちろん、優しいだけではないと思います。
町民全員がマイノリティを受け入れる価値観を持っている訳ではないと思うし、迅が移住してしばらくは、訝しげな目線で見ていたのではないかなと思います。
きっと迅は、渚が来るまでは町民の人とも(緒方さんや美里さん等、一部の人以外とは)あまり関わらずに過ごしていただろうから。
だけど、渚と空ちゃんが来た事で、公民館に行ったり地域の行事に参加したりと、自然に人と関わることが増えていった。
人と関わらないままだったら、迅にとって白川町は「優しい町」ではなく「一人になれる町」だったんじゃないかなと思います。
関わるきっかけをくれた、渚と空ちゃんにありがとうと言いたいです。

そして、町民の人たちも、迅のことを、きっと悪い人ではないだろうと理解はしつつ、どう接していけばいいかわからない、と感じていたのではないかなと思います。
そんな中での、「年をとったら男も女も関係ない」という房子さんのセリフ。迅だけでなく周りの人にとっても、迷いや悩みに一つの方向性を示してくれたように感じました。
白川町の人たちは、初めから無条件で優しかったというよりは、紆余曲折を経て優しさを築いていったように思います。

だからこそ、「田舎はこんなに優しくない」と感じている人には、「自分が白川町の人だったら」という目線で見て欲しいと思います。

そして、ぜひ白川町の人にも。移住者の方やマイノリティの方との関わりについて、映画を通じて考えるきっかけになればと願います。

「優しくなかった自分」に気づかせてくれた

映画の中、特に裁判のシーンで度々出てきた「普通」や「世間一般の常識」と言ったセリフ。胸に突き刺さってきて見ていて辛くなりました。
普通って何だろう?普通でいることが幸せなの?そんな思いがめぐります。

そういえば、私が白川町を出た理由のひとつも、「田舎の常識」に縛られたくないからだったことを思い出しました。田舎の考え方は私には合わない。都会の方が、色々な人がいるから自分が浮かないでいられる、そう思っていました。

だけど、カミングアウトの時の迅のセリフ「優しくないのは世界じゃなくて、自分だった」この言葉が映画を見終わった後も、重く胸の中に残りました。

自分も、もしかして。

田舎の人が自分のことを受け入れてくれなかったんじゃなくて、私が勝手に受け入れてくれないと思って心を閉ざしていたんじゃないか。

優しくなかったのは、田舎じゃなくて自分自身だったのかもしれない。

やっと、その事に気づきました。

これまで、「いつか地元の力になりたい」という思いと、地元の人と関わることへの不安、怖さの間で揺れ動いて迷っていましたが、そんな自分の背中を押してくれたような思いです。

私のように白川町を出て行った人にも見て欲しい映画です。
そして、「また帰ってみようかな」と思ってくれたら嬉しいです。


映画hisのパンフレット。
表紙が家の形にくり抜かれています。
二人の「帰る場所」を表現しているかのようです。
その場所が白川町だとしたら、嬉しいです。

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